海と街と

第28話



 いつからだったかな。


 明日が来るのは当たり前じゃないって、子供の頃に言われていた。


 俺が生まれる50年以上前には、戦争があった。


 加速する少子化や、国際的な環境問題。


 貧困。



 今日は今日であって、今日じゃない。


 そんな不思議な感覚に取り憑かれたのは、多分、もう、ずっと前のことだ。


 時々思うんだ。


 丘の坂道を下って、ガードレール越しの街の向こうに見える海を、時々眺めてた。



 海は、どこに続いているのか。


 空は、どこまで広がってるのか。



 くだらないけどさ?




 もしも、明日世界が滅んだら。



 そんなあり得ないようなことが、ふと、頭に掠めてしまうのは、“何かの間違いだ”って思うようにしてた。


 ばかばかしいっつーか、ぶっ飛んでるっつーか。


 なんつーんだろ。



 最近は、滅多にそんなことは感じなくなった。


 いつも通りの朝に、聞き慣れたニュースキャスターの声。


 中央区の人混みと、レトロなビルが立ち並ぶ旧居留地の街並み。


 背の高いビルの下に続く狭い路地。


 阪神高速線の高架下をくぐり抜けた先にある、神戸阪急デパート。



 フラワーロードに聳えるずんぐりと太った「三宮駅」の骨組みが、ガラス張りの外観の下で騒がしい街の輪郭を象っていた。


 入り組んだ道の先に見えるいくつもの看板や信号は、蜘蛛の巣のように複雑な模様を紡いでいた。


 立ち上がる排気ガスの向こうに見える、電波塔の被写体。


 ターミナル駅に出入りする急行1000系。


 色褪せた、線路沿いの長いフェンス。

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