第24話



 「本当にそれでいいのか?」



 彼は彼女に聞いた。


 自分のしたいこと。


 しなくちゃいけないこと。


 自分の本当の気持ちはどこにあるのかと、キャッチボールをしながら尋ねた。


 ある日の夕方だった。


 ビルの間から差し込んだ夕陽が、浜辺の上を照らしていた。



 「あんたに何がわかんの?」


 「世界一のピッチャーになるんやろ?」


 「なんの話や?」


 「とぼけんな。いつも言うとったやんけ」


 「そういやそんな時期もあったなぁ…」


 「このまま諦めるんか?」


 「せやから、あんたに何がわかんの?」


 「わかるわからんの話とちゃうやろ。お前の気持ちを聞いとんねん」


 「私の気持ち?」

 

 「“できるかできんかは、自分で決めるもんやない“。覚えとるか?お前が、俺に教えてくれたことや」



 彼女が教えてくれたこと。


 彼は、思い出すように語った。


 子供の頃から、駅の裏にある線路沿いの浜辺で、一緒にキャッチボールをしてきた。


 初めて受けたボールの感触を、彼はまだ覚えていた。

 

 あの頃、彼女は怖いもの知らずだった。


 まるで、できないことは何もないかのように、夢中でボールを追いかけていた。


 バカバカしいと思っていた。


 最初は。


 当時、無理やり付き合わされていた彼にとっては、彼女は“変わったヤツ“以外の何者でもなかった。


 何が嬉しくて、野球なんかやってるんだろうと思っていた。


 どうせ、一過性の流行りみたいなもんだ。


 そう思いながら、渋々相手をしていた。


 夜の公園で、夜な夜な練習に励んでいる姿を、見るまでは。

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