27、福山再訪⑤
3月17日。
福山三日目の朝は、激しい疲労と共に訪れた。
か、身体が動かん……。
流石の麻根も、前日の超濃密な一日で溜まった疲労が、慣れないベッドと短い就寝時間に増幅され、早起きするのがかなりしんどかった。
いやはや、歳は取りたくないものである。名前の通り、十時まで朝寝をしていたいことこの上なかったのだが、この日も朝から予定がみっちりと詰まっていた。
まずは恒例?となった朝のホテルビュッフェ。この日も目当ては牡蠣フライである。
ちなみにこの時は福山名物の「うずみ」なるものをいただいた。
こいつはお茶漬けみたいなもので、贅沢を禁じられた住民がご飯の底におかずを隠して食べていたことが発祥なのだという。
その名の通り、ご飯の下にちょっとしたおかずが敷いてあり、こいつに出汁をかけて食べる。これがなかなか美味かった。
ついでにこの朝食会場では、昨晩同じホテルに宿泊したらしい中山先生と再度の邂逅を果たしたりもした。
流石に完全プライベート状態なので、お互いに「昨日はどうも」と挨拶を交わしただけだったのだが。
そうして午前9時、ホテルロビーに集合した福ミス作家の面々と島田先生は、福山駅周辺の観光に出かけることになったのである。
事務局に案内をいただいて巡った先は、福山市美術館、福山市立図書館、さらに福山城博物館であった。
図書館にはなんと福ミスのコーナーが大々的に展開されており、歴代の福ミス受賞作や島田先生の作品、さらに出身作家の著作が網羅されているのである。
な、なんて羨ましいコーナーなんだ。
そしてここにも置いてある島田先生の等身大パネル。
もはや市のヒーローである。
また、つい最近改修工事を終えたという福山城は、中の展示も大変凝っていて、これまた飽きさせない楽しいところだった。
早馬を駆るシミュレーションや、火縄銃で的を撃つ射的といった、バーチャルアトラクションも充実している。
これらのアトラクションでは、案内いただいた方からの「誰かお一人、是非体験を」の声に大人たちがちょっと顔を見合わせる中、全力で挙手をしたうちの息子が、両方とも体験させてもらうことになった。
微笑ましい光景にちょっと笑いがおこる和やかな雰囲気。
……いやいやいや、これだけの作家陣に見守られながら遊ぶ息子、どういう状況だよ。
島田先生なんかご自分のスマホで写真撮ってるし。
そうして島田先生のプライベート写真フォルダになぜかうちの息子の写真が収まったところで、昼食をとり、昼からのトークショーの会場へ移動となった。
これは例年行われているイベントで、今年はポートプラザの啓文社さんの前の広場が会場となっていた。
ポートプラザというのは福山市内にあるデカいショッピングセンターである。当然通行人もかなりいて、これまた緊張するイベントである。
と、いうか、それ以前に。
なんとこの日、トークショーには知念さんも参加いただけることとなっていたのだ。
またしても島田先生と知念さんに挟まれて登壇する麻根。
目の前には立ち見のお客さんも多数。
……そりゃ緊張もする。
ただ、司会をしてくれた方の上手な仕切りもあって、なんとか格好のつく内容になった。
話の内容もそれほど難しいことではなくて、今作ではどんなところに力を入れたか、とか今後の活動は、とか、そんなことだった……と思う。
正直言うと、私がはっきり覚えているのは、客席から時々にこにこ顔で手を振っている息子の姿のみである。
流石にここまでくると疲労のせいなのか、頭があまり働いていなかった。よかったぜ、トチらなくて。
トークショーの後のサイン会では、ちょっと書き慣れてきたサインを並んでくださった方々に書かせていただく。
ちなみに私のサイン会の後の時間に同じ場所で開催された知念さんのサイン会では、100人以上が列を作ったのだとか。
すごすぎる。
それが終わると、島田先生や先輩作家の方々とはお別れし、いよいよ最後のイベント、書店訪問である。
今回は時間の都合もあり、2店舗を回らせていただいた。
どちらもものすごい量の拙著を並べていただいており、力の入れ方が違う。私の著作がこんな量配本されるのは後にも先にもこのときだけだろうから、嬉しいやらびっくりするやらで、またしても米つきバッタ状態になる麻根だった。
本屋から戻るタクシーの中で、担当編集のSさんと次回作の話をした。
まずはプロットを提出し、いくつか出して貰った中から選んでいきましょう、とのことである。
とりあえずは一作で切られるということはなさそうで安心したものだが、同時に次がコケるともう後はなくなるということでもある。
改めて気合いを入れ直した麻根だった。
こうして私の福山行きは無事全日程を終了した。
また長い時間をかけて信州へ戻ってきた夜中、まだ寒い空気にさらされながらコンビニで紫煙を吐きながら、しみじみと思ったものである。
いやはや、夢のような三日間であった。
……さて、これにて私の受賞記も一段落するのだが、最後におまけのもう一回を書かせていただきたい。
次は最終回、「図書館トークショー」でお会いしましょう。
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