第20話
☆
こうして俺は
今現在このアジトに集合している仲間はマルーカさんやアルちゃん含めて五人。 残りの二人が帰ってくるのを待つ間自由にしてていいと言われた。
今からでも行く気満々だったピピリッタ氏は口を尖らせていたが、こっちにも心の準備というものがあるから助かったっちゃ助かった。
しかしまあ、自由にしていいと言われても何をしていいかわからない。 そもそも気軽に外出していいのだろうか?
どちらにせよポホーラには到着したことだし、この街のどこかにいるイルミネさんに会えれば当初の目的は達成だ。
どうせやることもないし面倒ごとは早めに片付けておこうと思い、ダメ元でマルーカさんにそのことを話すと彼は快く外出を許可してくれた。
「でしたら街に向かうのですね? 護衛にイアルヴィーを同行させましょう!」
お優しいことに護衛までつけてくれるのだ、VIP対応である。
……とか言うとでも思ったか? 護衛という名の見張りだろう?
知ってんだよこっちは、どうせ俺が逃げないようにこのデカブツ女に見張らせて、逃げようとすれば狼どもで無力化し、またあの蛇で拷問だ。 知ってんだよ畜生が!
『落ち着きなさいティーケル氏』
『どうしたんだピピリッタ氏、俺は落ち着いているぞ』
『嘘つくんじゃないわよ、禍々しい負の感情が伝わってるんだからね』
俺たちはポホーラの街中を歩いているため、ピピリッタ氏は胸ポケットの中に収納中。 やや後ろからデカブツ女ことアルちゃんがついてきていた。 流石に狼めは召喚していなかったが。
今向かっているのは鍛冶屋だ。 そこでイルミネさんが研修をしているらしいのだが、鍛冶屋は街の奥の方にあるため人混みを縫うようにして歩いている状況。
最初に立ち寄ったピエサンキの街より五倍くらい人が多い。 それに地下の街なだけあって薄気味悪い。
建物自体は清潔感があるのだが、太陽光が刺さないと言うだけでどうも
マルーカさんに教えてもらった鍛冶屋に着いた俺は、恐る恐る中に入ってみる。 入ってすぐのところに受付があり、壁には複数の武器や楽器が飾られていた。
はて、なんで鍛冶屋なのに楽器が飾られている?
「おーっと、お客さんかい?」
店の奥から顔を出してきたのは立派な髭を生やした男。 顔はしわくちゃで恰幅のいい体格。
見た目的にはオヤジなのだが、その身長からは想像つかないほど老けている。 これはいわゆる
「ドワーフじゃん」
「おめーさん、ドワーフを見るのは初めてか?」
身長は俺の腰あたりまでしかない、だが見た目はジジイそのものだし見た目からして頑固者って感じだ。
これぞファンタジー世界で有名になった亜人種、ドワーフ! あからさまなファンタジーに触れてテンションがあがる。
「おっと、おめーさんはイアルヴィーじゃねえか、こいつは新入りか?」
「ヨウシアの旦那〜! どーもどーもなのさ!」
俺の後ろで突っ立ってたアルちゃんを見てドワーフの店主は眉を開く。 二人の会話を聞いている限り名前はヨウシアというらしい。
「ヨウシアの旦那、イルミネちゃんはいるさ? ここにいるハンサム君が用事あるらしいのさ」
「イルミネか? 今は奥で作業中だが、用事ってなんだ?」
アルちゃんがテンポよく話を進めてくれたので、俺はピエサンキの街でギルマスに託されていた箱を取り出した。 大きさ的にはホールケーキが入りそうな大きさで、無駄に重い。
「これを届けろってピエサンキのギルマスに言われました」
そう、今回のクエストはこの箱をイルミネさんに渡せという雑用。 はっきり言って俺以外の奴に頼めばよかったものを、なぜか俺にさせたというわけだ。
背負っていたバックパックから箱を取り出してヨウシアさんに渡すと、その箱をいろんな角度から見て、少し振って、今度は耳を近づけた。
「なるほどな、こりゃあ大仕事になりそうじゃねえか?」
なんて意味深なことを呟くヨウシアさん。 俺は意味がわからず首を傾げていたのだが、ヨウシアさんは何も理由を教えてくれないまま「ちょっとその辺座ってろ」とだけ言い残して店の奥に消えていった。
☆
店にはたくさんの楽器が飾られている。 バイオリンにフルート、太鼓やラッパ、琴みたいな楽器まで飾られている。
すごくざっくりとした説明かもしれないが、俺は楽器に詳しくないため正式名称はわからん。
詳しいことはわからないのだが、やはり剣や槍を見ているよりも楽器を見ていた方が楽しい気がする。 それに鍛冶屋なのに何で楽器が置いてあるのかが気になって仕方がない。
「なあアルちゃん。 あの楽器って何で置いてあるの? ここは楽器屋か何かなのか?」
「ここは鍛冶屋さ。 楽器が置いてあるのは当然さ」
「すまんなアルちゃん。 俺の常識では鍛冶屋には武器が置いてあるのが常識なんだ」
「だから楽器が置いてあるのさ」
「当然のように返事しているみたいだが、『だから』の意味がわからん」
鍛冶屋には武器が置いてあるのが当然、
「忘れたのさ? 呪歌は楽器で演奏しても効力を発揮する。 さっきマルーカの旦那がフルートで演奏してたさ?」
「あれって横笛じゃないの?」
「横笛もフルートも木管楽器さ、穴の大きさとか指の使い方とかが色々と違うのさ」
専門的な知識はよくわからない。 俺はずっと座ってても暇だから壁に飾ってあった楽器の元まで歩み寄っていった。
それにしても楽器が武器になるというのは何だか創作意欲をくすぐる設定だ。 俺は楽器を扱うのならエレキベースがいい。 なぜならエレキベースだったら学生時代にちょこっとかじったからである。
しかしこんな異世界にエレキベースなどがあるわけがない。 となると弦楽器を選択したいところだが、弦を使った楽器はこの棚の中だとバイオリンや琴に似てる楽器くらいだろう。
バイオリンは貴族のボンボンってイメージがあるが、琴だったら和を感じて何だか素敵な印象である。 和楽器っていいよね。
「アルちゃん、待ってるだけなのも暇だしこの琴引いてみていい?」
「コト? それはカンテレさ」
アルちゃんは首を傾げていた。 俺は琴に似ている楽器を指差していたのだが、やっぱりこれは琴に似ているだけで琴ではなかったらしい。
弦の数が琴と比べると明らかに少ないし形も小振りだ。 張ってある弦は五本しかない。
……ちょっと待て、今アルちゃんはなんて言った?
「ちょっと待てアルちゃん、これなんていう楽器だって?」
「だから、それはカンテレさ。 コトって何なのさ?」
「そうか、これが伝説の……カンテレ!」
俺が好きなアニメの中に、このカンテレを弾いているキャラクターがいる。 推しである。
だから俺はその珍しい名前の楽器を知っていた。 そして今、目の前にその楽器があるという話ではないか!
「アルちゃん、俺これ欲しい!」
「突然欲しいって言われても、意味わからないのさ! 自分で買うといいさ」
「俺はアルちゃんに
嘘である。 値札を見る限り俺が最初にピピリッタ氏からもらった軍資金の五倍の値段がする。 つまり軍資金にあまり手を加えていないとはいえ、ここまで収入が一切なかった俺は金欠なのだ。
「うぐ……そんなこと言われても、連れてこいって命令されたから仕方がなかったのさ」
「でもマルーカさん言ってたよ? こんな乱暴な方法で連れてくるとは思わなかったって」
「そんなこと言われても、いきなりあたしのルナガルムを皆殺しにするし、突然馬乗りになって拘束して来たのはそっちなのさ」
「いやいやいや、何言ってんのあんた! 突然魔物の大群が襲ってきたらビビって倒しちゃうに決まってるでしょ?」
「襲わせようだなんてしてなかったさ! 勇者の登場なら盛大にお迎えするのが礼儀だと思ったのさ!」
こいつはもしかしなくても、常識というネジが頭からすっぽ抜けてるのではあるまいか? 発言の内容が意味わからないのだが顔は真剣そのものだ。
つまりあれか? 俺を歓迎するためにあんな凶悪な顔をした狼めを大量に突進させて、ウェルカムカモーン! とでも出迎えるつもりだったと?
アホか! 怖いから反射的に返り討ちにするに決まってんだろうが!
俺がムキになって言い返そうとしていると、店の奥からヨウシアさんが戻ってきた。
「おいおい何を騒いでんのかと思ったら、お前なかなか見る目あるじゃねえか。 そいつは俺の最高傑作だぜ?」
嬉しそうな顔で戻ってくるヨウシアさん。 そしてその後ろから姿を見せたのは……
「ふふ、君がボクのことを探していた冒険者くんかな?」
夜空のような模様をしたサウナハットを被っている女性がヨウシアさんの後ろに立っていた。
そして最も重要な点、この子はボクっ娘である!
「こんなところまでご苦労様だね。 君と会えたのは、風の導きがあったからかな?」
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