マイ・ラスト・ワーズ
「イングウェイさん、できたよー」
「おお、早いな。さっそく見せてくれ」
俺を呼びにきたのは、青髪のエルフ鍛冶師、マリア。
ついに俺のリクエストしていた剣の第一号、試作品ができたのだ。
黒く鈍い光沢をもつ、長めの直剣。見た目はちょっとしゃれたロングソードだが、その内側はむしろ杖に近い。
マリアの鍛冶の才能は、魔力武器や魔道具の作成にある。エルフの血筋がそうさせたのだろう。
今回は作成中に俺が横について、指示通りに作ってもらった。いわば合作だ。鍛冶は専門外でも、魔道具の作成なら得意だったからな。
できた剣は、
普段マリアが(無意識のうちに)作っている武器は、魔力によって切れ味や硬度を増す。だが、この剣は逆で、魔力に対して強い抵抗をもち、魔力の流れ自体を乱すようにできている。
魔法は繊細なバランスの上に成り立つ技術である。魔力を編んで魔法を発動させるよりも、魔力の流れを横から乱すほうが、ずっと簡単だ。そしてこの剣は、魔力の流れに干渉し、断ち切れるように作ってみた。
マリアの魔力の流れがいびつなら、それを正すのではなく、いびつなこと自体を利用してやろうということだ。逆転の発想という奴だな。
ただし、魔力がない者が使ったら、ただの
「ほらサクラ、試し切りを頼むぞ」
「うええー、私でうまくいくんでしょうか?」
「知るか、やってみろ」
他に実験相手がいないから仕方ない。俺が自分で切ってもいいが、そうすると魔術師役がいなくなる。自分に攻撃するわけにもいかんしな。
サクラが剣に魔力を込めていくと、黒い刀身が深みを増した。いいぞ、しっかり起動できているじゃないか。
「手加減してやるから、気楽にやれよ」
「はいぃぃ」
いまいち自信がなさそうなサクラ。首を左右に振るたびに、束ねたピンク色の髪の毛もぷるぷる震える。あと胸も。
俺は揺れには気にせず≪
「せーのっ、やあっ!」
サクラが剣をぶんと振ると、火球はごうっと音を立て、二つに割れた後、霧消した。
「成功だな」
「うっしゃあっ! やったよ、とうとうボクのオリジナル武器が作れたよ!」
飛び上がって喜ぶマリア。目にはうっすら涙すら浮かべている。
頑張ったな、マリア。俺はその青い髪を、わしわしと撫でてやる。長い耳が手にあたり、マリアは「ひゃぅぅっ!」と妙な声を出す。
「あ、すまん、痛かったか?」
「え、えっと、そんなんじゃなくて、ええとー。イングウェイさん、エルフの耳を触るってどんな意味か知ってます?」
「いや。なんだそれ?」
「知らないならいいんです、えと、忘れてくださいっ!」
マリアは赤い顔をして、走って行ってしまった。
せっかくお祝いをしてやろうとおもったのに、変な奴だ。
「それにしても、本当にイングウェイさん、すごいですね」
そう言って感心しているのは、レイチェルだ。
「そうだよねー、こんな魔法の武器にまで詳しいなんて――」
サクラの言葉を、レイチェルは遮る。
「違うわよ、あの魔法よ。普通、攻撃魔法って、威力を上げる方が簡単なのよ。思いっきりやればいいだけだから。それをあんな低威力で、しかも速度までしっかりコントロールして。……あなた、本当に何者なんですか? 王宮に仕えている一級魔術師とかでも、あんなことできないと思いますよ」
「買いかぶり過ぎだ。……ただの魔術師だよ。ただ、人より少し経験が多いだけだ」
皆には、いつか、俺の過去のことを話してもいいかもしれないな。
俺は、ぼんやりとそう考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます