第9話
私たちは復活ライブを行うことになった。ライブの場所は、あの武道館だ。前武道館に立ったときは、ただ嬉しくて、高揚していた。すべてがキラキラまぶしく見えた。今回はいろいろあったからか前とはちょっと違ってみえる。何より、気持ちが落ち着いている。私は客席を見た。お客さんの顔が見えた。私のことを待ってくれていた人たち。私はマイクを口に当てて「みんな待っててくれてありがとう!」といった。わあっと声があがった。やっぱりそうだったんだ。みんな、私のこと待っていてくれたんだ。帰ってきたんだ。みんなの前に。私は広い武道館を見渡した。人で埋め尽くされた会場。スポットライトが私を照らしている。おかえり。私の幸せ。私はメンバー、そして新メンバーのアユムくんと目を合わせ、息を吸った。ライトがチカチカ光る。バンドの生音が私の中で響いている。私の歌声が合わさっていく。ああ、今、生きてる。そう思える。ライブが終わった。ライブにはお母さんがきていた。楽屋にきたお母さんは一言、「良かった。」と言った。カナデさんもきていた。「ライブ、素敵でした。僕もギター弾いてみたいと思いました。」といった。「弾いてみたら良いよ。きっと、カナデさんならうまくなる。私は知ってる。」私はそう答えた。遠藤くんも見に来てくれた。武道館という夢を叶えた私はこれからどこへ向かっていくのだろう。わかっているのは私の歌手人生は続いていくということだ。私には歌がある。仲間もいる。ファンのみんなも。ついている。何が起こるかわからない世界。だけど、私はきっと大丈夫。今は、そう思える。いろいろなことを乗り越えてここにいるんだから。
とある日。いつも見える東京タワーを横目に、今日もスタジオに行く。聳え立っている東京タワーは私のことを見守ってくれる。夢みたいに、輝いている私の東京タワー。まだまだ私に夢の続きを見せてね。そう、心の中で語りかけた。スタジオの中からドラムの音がきこえてくる。私を待っている音がある。きっと。みんな私を待ってるんだ。だから今日も行かなきゃ。たまに分からなくなるけど。たまに億劫になるけど。今日もみんなのところへ行こう。「ガチャ」とスタジオの扉を開けると、見慣れた顔たちがあった。「あ、スミレちゃん、いま曲作ってたんだよー。きいてよ!」とアユムくん。「何ー?」と私。「あ、このコードに合う歌詞あるかも!ちょっと待ってね。」スマホにメモしている歌詞をみる。コードに合わせて歌う。そこにリンちゃんのベースが合わさって。ユウタくんのドラムも合わさる。
それでもマイクは離さないで 甘夏みかん @na_tsumi
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