第8話
家の中でぐるぐる考える。どうしてこうなっちゃったんだろう。どうして私はずっと閉じこもっているんだろう。お母さんにわかってもらえなくて。それが辛くて。すべてがどうでも良くなって。頑張れなくなっちゃって。またメンバーと安田さんが家にきた。みんなの心配そうな不安そうな顔を見た。そうだ。私は自分が不幸になればそれで良いって思ってた。だけど、みんなは?安田さんの言葉を思い出した。「みんな待ってますよ。メンバーも、ファンのみんなも。」メンバーは今の私を見て幸せなんだろうか。ずっと私のことを支えてくれたマネージャーは不幸な私を見て、どう思うんだろう。私たちの曲に元気づけられていたファンの皆は?新曲がきけなくなったらきっとがっかりするだろう。私が不幸になればそれで良いって思ってた。私が歌うのをやめればそれで良いって。でも、違うんだ。私が歌うのをやめれば、みんな不幸になる。私が不幸になれば、きっとみんなも幸せじゃないんだ。私は幸せにならなきゃ。みんなのためにも。武道館から見た景色。楽しかったなあ。やっぱり私は歌うのが好きだ、メンバーのみんなが好きだ、そう思った。私たちの歌に励まされている人のことを思った。武道館で見たお客さんの顔を一人一人思い出してみる。メンバーやマネージャーだけじゃない。ファンのみんなも今頃私のことを心配している。本当に心から私のことを応援してたり、私たちの歌を好きになってくれた人なら。きっと。それなら、もういいじゃないか。お母さんにわかってもらえなくても。私のことをわかってくれる人たちがそばにいる。メンバーもマネージャーもファンのみんなも。私のことを待っているっていうんだから。それで良いじゃないか。そう思うことにした。そう思ってみることにした。それに。きっとカナデさんだっていまの状況の私を嬉しく思うはずはない。きっと、心配するはずだ。きっとカナデさんはそういう人だ。私は幸せになることにした。私は重い重い腰をあげた。
ガチャ。スタジオの扉を開いたら、見慣れた顔たちがあった。安田さん、ユウタさん、リンちゃん、そしてアユムくん。私はアユムくんに言った。「アユムくん、これからよろしくね。」私はアユムくんと握手した。アユムくんの腕はがっちり太くて、手のひらは熱かった。
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