第7話

マネージャーの安田さんから電話がかかってきた。「実は、さっきカナデさんが事故にあって。」ドクン「スミレちゃんの家に向かってる途中で。」ドクン「いま病院に運ばれたんです。」事故…?あのカナデさんが…。私の家に向かってる途中って。「私のせいで…?」どうしよう。目の前がぐらぐら揺れた。私はその場に座り込んでしまった。「スミレちゃんのせいじゃないよ」とユウタさん。「きっと大丈夫だよ。」とリンちゃん。病院に向かった。「命に別状はないです。」と先生。良かった。先生は続ける。「ただ…」その時、寝ていたカナデさん目をさました。「カナデさん!」カナデさんはこちらを見ていった。「初めまして。」カナデさんは記憶喪失になってしまっていた。なんでカナデさんがこんなことになるんだろう。しかも、私のせいで…?これからどうなるんだろう。今まで続けてきたバンドは?せっかくここまでみんなで作りあげてきたのに。バンドは4人でひとつの音。カナデさんは大切なメンバーのうちの一人だ。バンドを抜きにしても、大切な替えの効かない仲間だった。私にとって。しばらくして、安田さんは新しいギタリストを見つけてきた。「初めまして。アユムっていいます。」と彼はいった。私はなかなか口を開くことができなかった。全然、ついてけないよ。気持ちが前に進めないよ。バンドしたいなんて思えない。カナデさんもいないのに。一緒にツアーでいろんなところに行って一緒に遊んだカナデさん。ラーメンが好きなカナデさん。どうして。「嫌だ。一緒にやりたくない。」「そんなこと言わないで…。」と安田さんが遠慮がちに言った。「カナデさんが記憶喪失になってしまったのは残念だけど、アユムさんもやる気になってるし。話したけど、良い人ですよ。」と続けた。アユムさんは良い人なのかもしれない。だけど、やっぱり受け入れられない。そもそも歌う気持ちにもなれてもないのに。「…考えさせてください。」私はそう言って、家に帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る