第5話

ツアーが終わって、私はとあるライブを見に行った。ライブハウスでポツンと立ってギターを持っている男の人。彼の佇まいがどこか孤独を感じさせた。だけど、同時に見ている人の目を引き付ける何かがあった。彼が歌い始めた。その歌は彼の作り出した世界観にぴったりあってきいていて心地よい。観客は静かに彼の演奏に耳を傾けている。彼は、かつて夢を共にしていた、遠藤くんだった。ああ、君と私はよく似ているね。ステージに夢を持って生きてきたんでしょ?音楽に希望を持って。


それから私たちはたくさん曲を作り、たくさんライブをした。そうやって月日が流れた。そしてある日、マネージャーの安田さんがこんなことを言った。「武道館でワンマンライブしませんか?」「えっ」武道館と言えば、歌手なら一度は夢見る舞台のうちの一つだ。そんなところでライブができるなんて。私は嬉しくて、「もちろんやります!」と答えた。武道館ライブの前日、ドキドキして寝られなかった。明日になったらとうとう私たちの夢が叶うんだ。そして朝はきて、武道館ライブの日になった。ステージに立つと、たくさんの人の目がこちらを見ていた。ライブハウスとは違う。解放された広い会場で、私の声が遠くに響いていくようだった。メンバーと目を合わす。そして、前を見た。ライトに照らされて、お客さんの顔が見える。(良い顔してる。)みんな私たちに会いに来たんだということを実感した。お客さんの気持ちに応えるように、私は思いっきり歌った。とっても良い気持ち。音と、メンバーと会場のみんなと、いや、この世界すべてと一体化したような感覚。この世界は私のものなんだ。いま気づいた。ライブが終わったあと、遠藤くんが楽屋にきた。「西村さん、かっこよかったよ。」と言ってくれた。私は「ありがとう。」と言った。

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