第16話決着
落合も驚いていた。
---驚いたろ!これが本来のフォームだ。
---本来の⁉️
---ああ。3年前はフォームを変えて出場してたんだ。コーチに言われたからね。でも、ある時好きな体勢で打ってみろ。と、言われ今のフォームで打ったところパワーが段違いに強くなってる。これだけのパワーはさすがに天才さんでも打てない。
確かに打てない長嶋はそう思った。だから、相手に絶好球は与えない。普通の球でも、パワーがあるのに絶好の球なんて与えたら、ポイントだけでなく勢いもつきかねない。たださえ、相手に流れがあるというのにいつも冷静な長嶋だったが、この時は動揺した。
コートとチェンジ
初めてリードされて、迎えたコートチェンジ。長嶋にもその事実が重くのしかかった。しかし、長嶋はコントロールを無視してパワーに全てかけショットを放った。相手のラケットが吹っ飛んだ。相手も返せなかった。
---スゴイじゃん!月そのショット連ぱ…
ふと、月に声をかけると手首を押さえていた。月が縮こまって震えてる。
---あのショット手首が痛むのか?
長嶋は痛めた手首を隠した。
---いや、全然
あの冷静な月が動揺している。平気なフリをしている。明らかな嘘だ。と、落合は思った。
---いいか、月。チャンスがきても今の球を打つな!
と、長嶋の目を見て諭すように言った。落合は見逃さなかった。あのショットは打っちゃダメだ。月に相当な負担が残る。と、落合は思った。とはいえ、あのショットを使わないと勝てないとも思った。試合には勝つが、月の腕が壊れるか試合には負けるが、月の腕は守られる。その2つを天秤にかけた。試合には勝ちたいけど、月の腕も守りたい。たった数秒だが、落合は激しく葛藤した。考えていたら気の抜けたボールで返してしまい、思い切りスマッシュを打たれた。しかし、長嶋が返し。決めたと勘違いした相手は逆にポイントを取られる形となった。
---おぉ!月凄えな!
---偶然だよ。狙ったわけじゃない。そんなことより、太陽しっかりしてよ!
---ああ、すまん。
今の一撃で流れが良くなった訳ではなかった。落合は月の手首が気になっていた。通常のプレーは問題無さそうだ。落合は長嶋を観察していた。試合の点差が広がるばかりだった。
---さっきから何ジロジロ見てんの?視線感じてウザいんだけど
---わりい、あのショット打たないか見てた。
---太陽が打つなって言ったんじゃん。大丈夫だよ。
長嶋はこっそり、怒りながら言った。
---そうだった。月を信じる。試合に集中する。
そうして、落合は悩むのを止め、試合に集中した。すると、相手が後ろに下がり警戒している。あの時のショットの対策の為、
後ろで警戒していたのだ。しめたと思った落合これを機に得点を重ねた。そして、あと一つのポイントで追いつける。そう思った矢先、相手が
---もうあのショットは、打ってこない。警戒を解け!
と、落合達にも聞こえるように言った。落合はそれを聞き、再び攻略法を考えた。だが、相手は待ってくれない。まさに防戦一方だった。ながれがきて、もうすぐで追いつき逆転できそうだったのに、ながれを逃し差を広げてしまった。
---よし、月!前へ出よう!
この場面で2人とも攻めるのは危険だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず2人揃って前へ出た。この動きが功を制しポイントを重ねることができた。流れも引き寄せる事ができた。相手もポイントは取ることもあったが、試合の実権は握っている気がした。これは追いつけるぞ。と思ったら、執拗にロブを打たれてポイントを奪われてしまった。シーソーゲームは多いけど、セットカウント取られた状態でゲームカウントも差がつけられるなんて負けてはいないけど強い。そして、上手い。あと、1ポイントでもとられたら敗北が決定してしまう。負けたとしても、ここまでよく頑張ったなと言われるけど。そんな労いの言葉はいらないから、勝ちたいそれだけだった。
---太陽相手の弱点は?
---試合開始前から見てるけどわからない。
長嶋も相当上手いが落合が足を引っ張っているのは誰の目にも明らかだった。
月の足を引っ張っている。何とかしたいけど、できない。と落合は思った。こんなに屈辱的な事はない。まるで相手から無視されてるようだった。そんな沼から救ってくれたのは月だった。太陽と月がバッチリ目が合ったのだ。その瞬間、落合の目が覚めた。
テニスは楽しむもの
落合は忘れていた。そうだ!勝つを優先していたが、本来テニスは楽しむものだ。大事な場面なのにと、落合は思い楽しくに徹した。それは相手にも伝わった。この状況で笑ってる!?
相手が戸惑った。落合が楽しんでいるのを観客だけでなく、審判にも伝わった。そして、長嶋にも。サーブ権が自分に来た時は、バチっと目が合った。その瞬間、長嶋がどう動いてどう対応する可が、頭の中にイメージできた。サインをみる前に動きが読めたというか、わかった。不思議な感覚だった。でも、心地良かった。コートがり広く思えた。だから、ストロークも思いっきり打てた。相手がどこに打つかもわかった。ラケットに向きが見えてたからだ。る月も同じ感覚になった。言葉にしなくても分かった。お互いどんな動きをしてるかどんなショットを放っているか。言わなくても伝わった。た月の手首を痛めることなく放ったショットは負けないくらい威力があった。今度はこっちが攻めてポイントを重ねていった。そして、イーブンにもちこんだ。タイブレークになった。迎えたタイブレーク。勢いは完全に落合ペアにあった。先に点数を重ね、4-1となった。
---あと、3ポイントあれば勝てる!
そう落合が言った矢先、相手が反撃に出た。
なんと2人共前にきたのだ。それが効果的で、相手の重圧が強くロブを打てなかった。そして、かグングン差が縮まり逆転してしまった。さっき、あれだけ大きく見えたボールも通常のサイズに見えた。
---こっちだって優勝したいんだよ!確かに小学生の頃優勝したけど、また違った思いで参加してるんだ!泥に塗れたって這いつくばっても勝ちが欲しい。勝ちに飢えている!
と、落合は再び燃えた。相手の重圧を跳ね除けロブを放った。それが決まった。そして、マッチポイントを迎えた。勝つことを意識する落合と、何も感じず目の前のボールのみ反応する長嶋。性格が真逆の2人がペアを組んだダブルス。この一球が最後で最高の一球になった。長嶋がスマッシュを決め、返されずに跳ねた。
試合終了
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