第30話
モルフェスの首がぶっ飛んで、剣使いたちの戦いは終わった。
弓使いと杖使いが俺達の分身を容赦なくボコってくれた件は後で詳しく問いただそう。
それはともかく、親バカたちも魔獣を全員眠らせたし、あとは残っているのは魔王だけ。
その魔王も今現在、ラディレンの凶悪な正拳突きの餌食になり、壁にめり込んで血を吐いている。
ラディレンは破壊僧にでもなったのか?
一撃一撃放つたびに雷が落ちたみてえな爆音と、とんでもない衝撃波が飛んでくる。
あれは流石にやばすぎだ。
俺が頬をひきつらせていると、龍翔崎が勝ち誇ったような顔を向けてくる。 腹立つなこいつ。
後で親バカたちをもっと鍛えねえとな。
とは言っても、ラディレンたちは龍翔崎の頭の悪い指導でよくあそこまで強くなれたものだ。
俺も一部始終を見ていたが、龍翔崎は絶対何も考えないで適当に組手していただけだったと思う。
明らかにあの馬鹿どもの超解釈だと思いたいのだが……
冷静に考えると剣使いも槍使いも、解釈の仕方が理にかなってる。
ラディレンだってそうだ。 もしかして狙ってたのか?
触れれば相手の能力を無効化するという剣使いが、必ず触れられる状況を作り出すため戦況を先の先まで掌握する。
絶対に癒えない傷を与える槍使いが、攻撃を避けられないよう機動力から削いでいく。
全身を硬化させられるラディレンが全神経を拳に集中して放つことで、その硬さと身体能力が一点に収束し、大砲のような絶対的攻撃手段となる。
龍翔崎は馬鹿なのか賢いのかわからん、これがこいつの最も厄介なところだ。
ラディレンに必殺技を考えろだの拳に気合を入れろだの言ってたのは覚えてるし、剣使いの攻撃を読んでいるかのように立ち回っていたのも見ていた。
槍使いの立ち回りだってそうだ、その攻撃は受けたくないとばかりに武器をはたき落としていたわけだ。
あいつ、絶対的に説明が下手すぎんだろ! 逆にそれで理解しちまったあいつらがすげーんじゃねえか?
つまり龍翔崎はすごくねぇ。 すげーのはあの頭の悪い解釈を隅々まで解説した俺の頭脳が……
これ以上考えても埒が明かねー。 もうやめよう。
一人で悔しがっているうちに、ラディレン筆頭に戦いが終わった奴らが、壁にめり込んだ魔王を囲い込んでいた。
これでもう終幕だ、魔王城攻略戦は大成功となるわけだが……
「調子に乗るのよ、凡俗どもが!」
血を吐きながら、ラディレンを睨みつける魔王。
こんな状況だ、去勢を張っているようには見えない。
ラディレンもそれを悟っている、構えを取り直しながら油断なく様子を伺っていた。
その後ろに並ぶ剣使いたちやポン子たちも、全員で臨戦態勢をとっている。 最後まで油断しねーのはいいことだ。
後で褒めてやろうじゃねえか。
「ここまで追い詰められるとは思はなんだ。 テイアマットも、ハートゥングも……モルフェスまでもが仕留められるなど、今までこんな絶望は味わった事がない」
魔王は壁から這い出てくると、謎に強気な笑みを浮かべつつ、金杖の先を光らせる。
「だが忘れてはいまいか? 予は既に大陸統一の準備を整えておったのだぞ? 貴様らは予を追い詰めるのが遅すぎたな! さあ、絶望と共に泣き叫ぶが良い!」
魔王の金杖が光った瞬間、全員が慌てて攻撃を仕掛けたが……
次の瞬間、巨大な砂煙が上がり、飛びかかったラディレンたちが吹き飛ばされた。
後衛から攻撃をしていた弓ちょこや杖使い、ポン子とドラ子が驚愕の表情を浮かべる。
「——何? なんなのあれ?」
ポン子が目を見開きながら声を漏らした。
「ちょっとちょっと!」
「み、見たこと無いよあんなバケモノ!」
砂煙の中から、小山のような大きさの物体がムクリと起き上がる。 大きさ約十五メーター強の体躯をした歪な容姿の巨人だった。
上半身は人型をしているが、腿から下は巨大な大蛇がとぐろを巻いたような形になっており、瞳は獄炎のように淡く輝いている。
「予が今まで強い部族を滅ぼし、一族最強の戦士を集めていた理由がわかるか? こいつを最強の人造魔獣にするためだっ!」
血まみれの体で、満身創痍にも関わらず、両手を高々と掲げる魔王。
「さあ恐れ慄け! そして絶望しろ! お前らの前に立っているコヤツは、何もかもを無へと変えてしまう絶対強者なのだからな!」
魔王は自信満々にそう演説しながら、巨大な化物をうっとりとした目で仰いでいる。
「こやつの名はティフォン! この大陸で選りすぐった最強部族たちの遺伝子を引き継がせ、もはやこの大陸では敵なしの存在となった予の秘密兵器! 絶望と共に死に失せろ! 忌々しき凡俗どもがぁっ!」
魔王の高笑いが響き渡り、顎を震わせながら眉をしかめるポン子たち。
さすがのラディレンたちも眼の前のバケモノを見ただけで、とんでもなくやばい代物だと気がついたのだろう。 と言うより、やつの脅威を肌で感じているだろうな。
この俺ですら、あいつはやべーとひと目で分かる。 この世界で見たどんなやつよりも、どんな魔物と比べても格が違う。
異次元の絶対強者。
だが、ここで空気を読めない男が立ち上がった。
「あー、ちょっといいか? このデカブツがラディレンたちの戦いを邪魔しようとしてるみてえだから。 俺がすぐに片付けるが、文句ねえよな?」
高笑いをしていた魔王の声がぴたりと止む。
及び腰になっていたラディレンが悔しそうな顔を向けてくると、龍翔崎がニヤリと口角を上げた。
「だってラディレン……おめー言ったよな? 『こいつらには手を出さないでくれ』ってよ。 そん時、こいついなかったぜ?」
困ったように笑った直後、申し訳無さそうに眉尻を下げるラディレン。 それは屁理屈っていうんだぜクソ龍翔崎。
「龍翔崎様、すまぬのう。 妾は未熟がゆえ、この化物に勝てるビジョンが浮かばぬ。 まだまだ修行が足りぬようじゃ。 せっかく貴方様に鍛えていただいたというのに……」
「気にすんなよラディレン! 俺がまた鍛えてやっからよ!」
呆けた顔で、ラディレンと龍翔崎を交互に眺めている魔王。
龍翔崎は特攻服を脱ぎ捨て、反射的に駆け寄ってきたラディレンが脱ぎ捨てられた特攻服を大切そうに、優しく抱え込んだ。
「つー事でよ! 途中参加は断固認めないんで夜露死苦!」
龍翔崎が自分の拳同士を勢いよくぶつけ、瞳を爛々と輝かせた。
こいつが本気で喧嘩する時、特攻服を脱いだ後拳を叩きつけるのは一種のルーティーンと言えるだろう。 まあ、邪魔なら最初から特攻服なんか着てんじゃねーと何回も難癖をつけてやったが……
そのたびにあいつは得意げに言ってやがった。
——特攻服は俺達暴走族の誇りと魂を刻んだ大切な正装だ。 俺がこの特攻服を封印する時は、暴走族辞める時以外ねーんだよ!
つまりその誇りと魂が染み込んだ特攻服を預けるということは、自分の魂をそいつに託すということ。
今この瞬間、ラディレンは龍翔崎の魂を預かったんだ。
あいつが大切そうに抱えた特攻服をちらりと流し見て、呆れて溜息をこぼしちまう。
まあどのみちあの野郎、ラディレンたちの戦い見てて。 自分も暴れたくなったからそれらしい理由つけて戦いたかっただけだろう。
ラディレンの戦いぶりに感銘を受けたからこそ、あの特攻服をすんなり預けちまったってわけだ。
まったく困った野郎だぜ、ラディレンのやつはあの特攻服の大切さを分かってんのか?
正直俺も存分に暴れてやりたかったが、今回は仕方がねーから裏方に回ってやるか……
そう思いながら俺は、ラディレンたちの元へと足を向けた。
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