第16話
鳳凰院の尋問が始まったのだが、フラウのせいで話が進まない。
フラウがふざけているから進まないのではない、鬼王たちの主張を嘘だ出任せだと騒ぎ散らすからだ。
しかし俺が見ている限り、鬼王たちは嘘や出任せを言っているようには見えなかった。
意見が食い違う理由はただ一つ、鬼王たちの主張だと……
「黒幕は魔王ですわ。 現在最も天下統一に近いのは魔王ライルフト。 だから純粋な部下ではないラディレンちゃんやフラウは魔王城から突き放されたんですの。 あたかも前線で聖王軍に押されてる魔王軍を助けると言う名目をつけて」
ヴァルトアの主張を聞き、フラウが怒りに震えながら目の前の机を力任せに叩いた。
「ほーおーいん君を騙そうとしてるのね! 耳をかしちゃだめよほーおーいん君たち! こいつらは魔王様を裏切った鬼王たちなんだから、魔王様をおとしめようとして当然だわ!」
フラウは必死に鳳凰院に怒鳴りかける。
そんなフラウを横目に見ながら、鳳凰院は茶煙草に火をつけた。
「ならお前の能力を使って尋問するか? お前がこいつらを下僕にして、嘘をつかずに全て話せと命じればいい。 安心しろ、こいつらは拘束してるんだ。 反撃などしてこないぞ?」
「かまいませんわ? フラウはわたくしたちを下僕にしたとしても、自害や辱めは絶対にさせないですからね」
ヴァルトアと鳳凰院がフラウを睨む。
すると怒り狂っていたはずのフラウは、あからさまに動揺を見せた。
「そ、そんなこと言っても……きっと、きっとあたしの能力に対して何らかの対策をしているのよ! だからこいつらはこんなに強気なんだわ!」
「ならうちはどう? さっきまであんたに下僕にされていた。 うちならきっと何の偽りもない情報を吐ける。 吸血鬼がここまでいってるんだ、うちにも操られる覚悟があるよ」
シャルフシュがフラウに真剣な瞳を向ける。
するとフラウはあからさまに狼狽え始めた。
先ほどからフラウの様子を見て悲しそうな表情をする鬼王。
俺は何となくこの戦争のカラクリが分かってきてしまっている。
おそらく鳳凰院はもうあらかたの状況を把握しているんだろう、だけどあえてそれを言わないようにしている。
それを言うのは、フラウに残酷な現実を押し付けることになるからだ。
いや、フラウだけじゃない。
ラディレンやこの砦にいる魔王軍兵士たち全員に言えることだ。
「どうした? フラウ・シェーネラウト。 早くうちを下僕にして洗いざらい吐かせてみろ」
震えながら後ずさるフラウを、シャルフシュはじっと見つめる。
「やめるなんし! あっちは……フラウに辛い思いをさせたくないでありんす。 知らない方がいい事だって、この世界にはあるなんし」
鬼王の叱咤を受け、シャルフシュは鋭い視線を送る。
「けどこのままじゃ埒があかない。 この白い人にうちらの話が嘘だと思われれば、うちらの命が危ないんだよ?」
「それは安心しろ、お前たちが嘘をついていないことは百も承知だ。 目と仕草を見ればそのくらいわかる」
鳳凰院はしばらく眉間にシワを寄せながら何かを思案し、茶煙草を消しながらため息をついた。
椅子を立ちながら壁に寄りかかっていた俺の方に歩み寄ってくる。
「龍翔崎、俺はフラウと一緒にラディレンの様子を見てくる。 こいつら三人の尋問変わってくれるか?」
「ったく、しゃーねーな」
声をかけられた俺は二つ返事で了承する。
「そう言うことだポン子、外を歩きながら頭を冷やせ。 それにラディレンもそろそろ起きるだろう。 呼びに行くぞ?」
鳳凰院の言葉に力無く頷くフラウ。
浮かない顔でトボトボと鳳凰院の後に続いて収容所を出ていった。
鬼王は終始フラウに母のような優しい眼差しを向けていた。
だからこいつがこの戦争の裏に隠された情報を握っているのは間違い無いだろう。
「おい鬼王、フラウはもういねえ。 遠慮なく本当のこと喋っていいんだぜ?」
俺は鳳凰院たちが出ていったのを確認してから、鬼王たちの前に置かれていた椅子に座った。
さっきまで鳳凰院が座っていた椅子だ、ちょうど肘を置けるところに小さい丸机もある。
ケツがちょっと生暖かくてなんか気持ち悪いが、立ちっぱなしだと疲れるからな。
「龍翔崎様は、どうして魔王軍に力を貸してるでありんすか?」
「成り行きだ、この世界に来たらちょうどあいつがシャルフシュたちに殺されかけてたからな。 女相手に四人がかりはだせえだろって思ってその場のノリで助けただけだ」
俺の言葉を聞いて、シャルフシュが頬を引きつらせた。
「嘘っしょ? じゃあうち、成り行きで脇腹に風穴開けられたって言うわけ?」
「いやいや、魔王軍だとか聖王軍だとか何も知らなかったからよ。 それを聞くためにフラウを助けたんだ。 お前らこそ四人がかりで戦ってたのが悪いぜ? 何も知らない奴が見たら、ただの弱いものイジメにしか見えねえだろ?」
俺が肩を窄めながら視線を投げると、シャルフシュは、それもそうか、とぼやいた。
「ちょっとよろしくて? この世界に来たばかりとはどういうことですの?」
「ああ、それは話すとめんどくせえから魔王倒してからじっくり話してやる」
ぶっちゃけ日本から来ました、なんて言って信じてもらえるかわからないし、鳳凰院もこの事は言おうとしていないから言わない方がいいのだろう。
ヴァルトアは不思議そうな顔をしながらも俺に質問を続けた。
「まあ後で教えていただけるなら別に構いませんが……。 言葉の意味から察するに、龍翔崎様は魔王に記憶を操作されていないと言うことでしょうか?」
不服そうな顔のヴァルトアが、首を傾げながら問いかけてくる。
「記憶? 魔王の能力は記憶を書き換える能力なのか?」
「魔王ライルフトの固有能力は、触れた相手の記憶を読み取り、それを改ざんする能力でしてよ? 触れた相手の記憶を自らの思うままに書き換え、あたかも自分を恩人のように錯覚させて操ることが可能ですの。 他にも、愛すべき味方を……恨むべき敵に錯覚させることもできますわ」
ヴァルトアが下唇を噛みながら、瞳に怒りの炎を
俺はヴァルトアの様子を横目に見ながら考えてみた。
記憶の書き換え、これが本当なら今まで腑に落ちなかったことに全て説明がつく。
なんだかんだで俺もファンタジーの世界にのめり込んできてしまったみたいだ。
「あっちやヴァルトアも、魔王に記憶を書き換えられていたでありんす。 そのせいでしばらく魔王の配下、魔王軍幹部として戦ってきたなんし」
「じゃあお前らはもう魔王の記憶操作から逃れてるってことか。 そういえば鳳凰院とフラウが朝話してたな。 鬼王と骸王は魔王軍の元部下だとか」
俺は脳内で朝の会話を思い出しながら胸ポケットにしまっていた茶煙草を取り出した。
するとヴァルトアは、首を傾げながら俺の茶煙草をじっと見始める。
「さっきから思っておりましたが、その上品な香りの物は何ですの?」
ヴァルトアが俺の茶煙草に興味を示した、俺はくわえていた茶煙草に火をつけながら、ん?と眉を上げる。
「茶煙草だ、吸ってみっか?」
俺がくわえていた茶煙草をヴァルトアに差し出すと、隣にいた鬼王がモジモジしながら体を乗り出してきた。
「あっち、すっごく吸ってみたいでありんす!」
何だこいつ、急にぐいぐい来んな。
俺は若干引きながら距離をとる、するとヴァルトアが鬼王に体当たりし始めた。
後手に腕を拘束されてるからだろうか、動きがなんか怖い。
「主人様! はしたないですわ! 貴方様は関節キッスがしたいだけでございましょう? 龍翔崎様は、わたくしに吸ってみるかと問いましたのよ! そのチャタバコは、わたくしのものですわ!」
「何を言うでありんすか! 配下のくせに、あっちの龍翔崎様と関節キッスをするだなんて! これは謀反でありんす!」
………何言ってんだこいつら。
俺はガチ口論を始める鬼王とヴァルトアを眺めながら、何事もなかったかのように椅子に座り直した。
シャルフシュも二人を見てドン引きしている。
「ちょっと赤い人、この変態二人を黙らせてくんない?」
「多分無理だぜ? こいつらはもう救いようがねえ」
鬼王の部下は、みんな頭がイカれた変態なのだろうか?
そんなことを悩み始めたのだが、肝心な情報を聞き忘れていることを思い出した俺は、一番まともそうなシャルフシュに色々と聞くことにした。
「なあシャルフシュ、お前が一番まともだからお前に聞くけどよ。 聖王軍のフルプレートあるだろ、あれは聖王の能力で間違い無いんだよな?」
「ああ、間違いないわ? って言うかあんた、いいやつね。 あの白い人と違ってうちの事ちゃんと名前で呼んでくれるのね?」
シャルフシュは微笑みながら鼻を鳴らす。
「んなことどうでもいいだろ。 質問続けるぞ? あのフルプレートの下に、人間族がいなかったのはどう言うことだ?」
俺はシャルフシュに歩み寄り、目線を合わせるために屈み込んだ。
シャルフシュは俺の質問に対し、ああ、と一言言ってから真剣な顔をした。
「今、聖王軍の本拠地、メンシュルクでは内乱が起きてて、その内乱は魔王の能力で……」
「あぁぁぁぁぁ! シャルフシュ様! 抜け駆けはよろしく無いですわよ! その関節キッスはわたくしが!」
「これヴァルトア! そなたの方こそチャタバコではなく関節キッスがしたいだけでありんしたの? あっちは本当にチャタバコが吸ってみたくて……」
「だぁぁぁぁぁ! うるっせえぞ変態ども! シャルフシュの話が聞こえなくなっちまっただろうが! てめえらに茶煙草は二度とやらん! 黙って座ってやがれこの変態どもがぁぁぁぁぁ!」
シャルフシュが重要な話をしてくれるところだったのに、鬼王とヴァルトアが体当たりしてきやがったせいで話が進まなくなった。 突然体当りされたシャルフシュは目を回してやがる。
鳳凰院、早く戻ってきてくれ。
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