第15話 龍翔崎奏多、尋問始めるんで夜露死苦!
シェラハート平原での戦いは鳳凰院が鬼王どもをフルボッコにして魔王軍の完全勝利になった。
降参した鬼王たちと、ボロボロになった冒険者四人を拘束して、俺たちは砦に戻ってくる。
フラウはどっかのバカのせいで半壊した砦を見て、思わず頬をひくつかせていた。
「え? なんで砦半壊してるのよ?」
「すまん。 慌てて飛び出したんだが、少し踏ん張ったらかなりぶっ壊れた」
涼しい顔で謝る鳳凰院。
こいつがいきなりぶっ飛んで行ったせいで、俺は砦の崩落に巻き込まれた。
瓦礫の山に埋もれちまったし、とんでもないとばっちりだぜ。
「そんなことよりよ。 鬼王だったか? このクソベッピンな女が意味深なことほざいてやがったぜ?」
俺は親指で鬼王を指し示す。
「いやでありんす龍翔崎様? あっちのことを、ベッピンだなんて……」
鎖でぐるぐる巻きにされてるにも関わらず、身を捩らせながら色っぽい目線で俺を見てきやがる鬼王。
「おまえ、捕まってんの忘れてるわけじゃねえよな?」
「ああ! 嫌なんし! あっちはこれから龍翔崎様にどんな目に遭わされるでありんすか……あいたっ!」
なんかこいつの目がやばかったから超手加減してチョップをかます。 さっきまでうわずった声だったのに、チョップした瞬間野太い声になった。
意外と痛かったみたいだ、まだまだ調整が必要だな。
「とりあえず寝ちまってるラディレンと、この冒険者たちを手当てしよう」
「え? ほーおーいん君! 冒険者たちも手当てするつもり?」
フラウは慌てて鳳凰院ににじり寄る。
もうこいつ、完全に女の目をしてやがる。 鳳凰院め……罪な男だぜ。
「いろいろ聞きたいことがあるからな。 弓使いや剣使いはまだしも、槍使いは死にそうだからな」
「あの、うちらちゃんと名前あるんだけど。 ちなみにうちはシャルフシュね?」
唯一無傷だった弓野郎が鳳凰院に文句を言った。
フルプレートをひっぺがして驚いたが、弓野郎だけは女だった。
だから弓野郎ではなく、正しくは弓女。 最初ぶっ飛ばした時も女みたいな声だと思ったが、まさか本当に女だったとは驚きだ。
ちなみに他三人は若くて真面目そうな男だった。
青髪、緑髪、黄髪で、シャルフシュが赤髪ポニーテール。 すげーカラフルだ。
「ああ、後で覚えてやる。 だがおまえはさっきの戦いで超絶に足を引っ張ってたからな。 使えないへなちょこだから、あだ名はそのままへなちょ子だ」
「くっ! ネーミングセンス最低かってつっこみたいけど、返す言葉も無いじゃない!」
悔しそうな顔をするシャルフシュ、こいつは冒険者たちの中で唯一の無傷。
鳳凰院が言うように、フラウに操られたこいつのせいで、冒険者たちはボロボロにのされていた。 けどへなちょ子って……今後の鳳凰院のネーミングセンスが心配だ。
怪我をしている冒険者三人は医務室に運び、比較的傷が少ない鬼王とヴァルトア、シャルフシュを尋問するために収容所に来ている。
三人の拘束をより厳重にしている間、鳳凰院が尋問の用意をする。
とりあえず俺は鎖でぐるぐる巻きだった鬼王に手錠をかけ直していた。
「ああ! 龍翔崎様に手錠をかけられてるでありんす! どうして龍翔崎様はあっちの拘束ばかりするでありんすか? やましい目的があるんでありんすか? でしたら、あっちはいつでもウェルカムなんし!」
「おい鳳凰院。 この変態の口塞いでいいか?」
「バカか? 口を塞いだら尋問できんだろう」
口を塞いで何をする気なんしぃぃぃぃぃ! なんて言ってるこいつをぶん殴ってやりたいが、本能的に気がついた。 多分ぶん殴ったら余計喜んじまいそうだ。
「おいへなちょ子! 性格的に一番まともそうだから、尋問はまずはおまえからだ。 聖王軍の兵士たちに人間がいないのはなんでだ?」
「あ、そのあだ名定着させちゃう感じ? 勘弁してほしいわ」
シャルフシュは意外とサバサバしているが、さっきの戦いの失態をかなり悔やんでいるらしい。
「悔しかったらもっと活躍しているところを見せるべきだったな。 おまえの働き次第ではあだ名変更権を与えてやる」
「え? うちってまさかおまえの脳内だと軍門に下ってる感じ? 何それ意味わかんない」
口を窄めるシャルフシュ、結構気も強いようだ。
「もういいおまえは一生へなちょ子だ。 次、そこの銀髪だ。 いつまで伸びてるフリしてやがる。 俺は熊じゃないから死んだふりは効かんぞ?」
「ちょっと待った! 一生へなちょ子は嫌だから、ある程度の質問には答えてやらないこともない!」
プライドがやけに高いシャルフシュは、不名誉なあだ名を嫌がり結局鳳凰院の質問に答えると言い出した。
「わかればいいんだ、おいポン子! そこで伸びてるフリしてる銀髪を無理やり起こせ!」
「む、無理やりって? どどど、どうすればいいかなぁ?」
フラウが全力でかわいこぶってやがる、引っ叩いてやろうか。
「そうだな、とりあえず……くすぐっておけ」
鳳凰院、意外と雑だ。
言われた通りフラウは死んだふりをしているヴァルトアの脇腹を、怪しい手つきでくすぐり始めた。
数分間フラウのくすぐりがヴァルトアを襲っていたが、たまにほんの少し身を捩らせるだけで一向に目を覚まそうとしない。
鳳凰院は次から次へとシャルフシュに質問を投げかけ、時たま雑談のような会話も聞こえてくる。 なんか仲良くなってないかあいつら? クソ女ったらしめ!
一方くすぐられ続けているヴァルトアは、数分間に渡るくすぐりが効き始めたらしい。 目頭に涙を溜めながらプルプル震え始めたが、必死に死んだふりは継続している。
この間抜けな絵面を見ながら俺は小さくため息をつく。 仕方がないので涙目でプルプル震えているヴァルトアの隣にかがみ込み、耳元で魔法の言葉を唱えてやった。
「起きねえと頭カチ割っぞゴラァ」
「ゴッゴッゴゴゴゴゴゴごめんあそばせ! わたくし、まだ死にたくはないのですわ! なんでも言う事を聞きますので、命だけは助けてほしいですわ! 貴方様が望むなら、わたくしの全てを捧げる覚悟でございますとも!」
ちょっと耳元で囁いたら命乞いを始めてしまった。 恐怖のあまり号泣しながら、顔がぐっちゃぐちゃになっている。
「おいおい、なんもしねえから普通に起きてりゃいいんだよ。 手を出すつもりもねえし、俺らのそばにいりゃあ命は守ってやっからよ」
俺は怯えるヴァルトアの前に屈みこみ、頭をポンポン撫でてやりながら優しく声をかけてやった。だってすげー怯えてるんだもの。
するとなぜだろう、ヴァルトアは突然泣き止んで、キラキラ瞳を輝かせ始めた。 その様子を横目に伺っていた鳳凰院は、尋問の途中に盛大なため息を付く。
「おい龍翔崎、尋問中にナンパはやめろ」
「え? まじ? 赤い人、吸血鬼なんかに興味あんの?」
鳳凰院とシャルフシュがゴミを見るような目で俺を見てきやがった。 おまえらこの短時間で何息ぴったりになってんだよ……
「ざっけんな! ナンパじゃねえ!」
俺は頭をポリポリ掻きながらヴァルトアに背を向けた。
「そっちに行かないでくださいませ龍翔崎様! わたくし、人間族でも全然アリなのですわ!」
「ヴァルトア! この泥棒猫! 龍翔崎様は今、あっちにメロメロなんし! ヴァルトアはクールガイな白い人を狙うでありんす!」
「このクソ女ども! ややこしくなっから余計なこと口走るんじゃねぇ!」
俺の叫びは収容所内にこだました。
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