第12話
魔王軍と聖王軍の戦いは激化していた。
中央ではラディレン、ポン子の二人と、聖王軍の冒険者四人が頂上決戦をしている。
その周辺でお互いの兵士たちが小競り合いをしていて、魔王軍の兵士たちは数の差もあり若干押され気味だ。
「それにしても、ポン子は戦い方が上手いな」
双眼鏡を覗いていた俺の呟きに、龍翔崎が耳ざとく反応する。
「だな。 あの糸は魔法か?」
「だろうな、なんかつぶやいてから糸を発射していた。 能力とは別に、あいつらは魔法が使えるのだろう」
龍翔崎が鼻を鳴らし、双眼鏡から視線を外して俺を横目に見る。
俺たちは砦の櫓に登り、それぞれ借りた双眼鏡で戦いを覗いているのだ。
「あの弓使いが操られるまでのトリック、分かったか?」
「ああ、この距離だからギリギリ分かったが………現場で戦ってる奴らはまず気がつかないだろうな」
ポン子が初撃で黒い糸を上空から飛ばした瞬間から、あいつの策は始まっていた。
あらかじめラディレンと打ち合わせでもしていて、初めから弓使いを狙っていたのだろう。
相手の視線が黒い糸に集中する中、反対の手からもう一本、緑色の糸を出していた。
緑の方の糸は目立たないよう地を這わせ、弓使いの足下に伸ばせば、あの草原では気づくことなど難しいだろう。
案の定上空か襲ってきた黒い糸を剣使いがぶった切り、その隙にラディレンが剣使いに突進。 なにやら言葉をかわしていたみたいだが、俺は口の動きだけで会話の内容を把握することなんてできない。
ラディレンの怒りっぷりを見る限り、なんらかの挑発を受けたのだろうか?
対してポン子の立ち回りはそれはもう見事なもので、開始数秒で緑の糸を弓使いに触れさせ下僕にすることに成功し、弓使いを使って杖使いを襲わせた。
魔力で作り出した物体で触れても下僕にできるらしい。
おそらく自分の魔力を相手に触れさせるのが能力の発動条件なのだろう。
ポン子に操られた弓使いの射撃を杖使いは間一髪でかわし、咄嗟に作り出した炎の壁で自らを覆い隠して引きこもっている。
そこでポン子は弓での攻略が難解だと判断したのだろう。
すぐに杖使いを見かぎり、すぐさま剣使いと槍使いを狙撃。
剣使いはあの弓使いの矢を対応できていたみたいだが、槍使いには対応手段がなかったみたいだ。
二対一の状況から分断され、他に意識を割かれた剣使いは一瞬の隙をラディレンにつかれ、ぶっ飛ばされて絶体絶命と言ったところだ。
「フラウの野郎、ただのポンコツじゃなかったんだな」
「まあ、魔王軍の幹部とか言ってるくらいだしな。 そんなことよりあの冒険者ども、結構強かったんだな」
龍翔崎は鼻で笑っていた。
「剣野郎のの能力はよく分からねえが、無理矢理にでもラディレンに接近しようとしてるところを見るに、ダメージを与えることで何らかの能力が発動するんだろうな。 弓野郎は放てば絶対当たる矢ってところか? なるほど、俺はあいつの矢をキャッチしちまったから意味なかったわけだ」
「そうだな、他にもラディレンが槍使いの攻撃を是が非でも避けようとしていたから、当たると何かしらよくないことでもあるんだろう。 杖使いは炎の中に引きこもってしまったからな、全くわからん」
槍使いと剣使いの分断に成功してからは、ポン子は水の魔法を使って杖使いを叩き出そうとしているようだが、
「あの炎、魔法の精度を上げれば簡単にとっぱできそうだが? 何でそうしねえんだ?」
「おそらく弓使いの操作に神経を注いでいるのだろう。 強力な魔法は使えないんじゃないか? さっきから弓使いのそばを全然動いていないからな」
個人的な意見にはなるが、炎の壁を突破できないなら最初のように早々に見限って槍使いか剣使いを本格的に始末したほうが良さそうだ。
弓使いの能力は絶対当たる矢だ。 槍使いに防ぐ手段がないのなら心臓を狙って一撃で殺してしまえばいい。
なぜフラウは腕や足を射抜くだけで殺そうとしない? 無力化するだけにして捕虜にするつもりなのか?
最善の策を俺が提示するのなら、引きこもってる杖使いは適当に放置して、接近戦が得意そうな剣使いと槍使いを早々に始末。
ラディレンとタイマンで戦ってる所にタイミングを合わせて弓使いの狙撃を織り交ぜれば攻略は難しそうには見えない。
ラディレンは以外にも立ち回りが上手いからな、戦い慣れているのだろう。 龍角族は大陸最強と言っていたのも納得だ。
「フラウの野郎、いい加減杖使いに魔法ぶっかけるのやめたほうがいいと思うんだがな」
「ああ、時間の無駄にしかなっていないだろうな」
「まあ、放置しちゃいけねえ理由があるんなら納得だが。 それなら弓使いを自害させて杖使いに集中したほうがいい。 第一、槍使いもちまちま腕や足を射抜くだけにしねえで始末したほうがいいだろ。 捕虜にするとしてもひとり残せば十分じゃねえか」
「お前も俺と同じ考えか。 なんだか釈然としねえな」
「そりゃあこっちのセリフだくそったれ」
俺たちがそれぞれの見解を話し合っていると、引きこもっていた杖使いが炎の壁を霧散させた。
「お? 噂をすれば、引きこもりが出てきたぜ?」
龍翔崎が期待を膨らませたような声で語りかけてくる。 完全にスポーツ観戦気分らしい、呑気なやつだ。
それにしても杖使いの足元に突然魔法陣が出現したようだが、何か大技でもするのか?
俺は双眼鏡から目を離し、茶煙草に火をつけながら思考を巡らせる。
フラウがわざわざ回りくどい理由で弓使いも槍使いも殺さなかった理由はいまだに分からんが、杖使いを叩き出そうとしている理由はなんとなくわかった。
おそらくあの炎の壁に自身を守護させて大規模な魔法でも使おうとしていたのだろう。 なんだか見ていてイライラしてきたな。
殺さないにしても気絶させる方法くらいあっただろう? ポン子は弓使いを操っていながら、槍使いが致命傷にならないように気を使いながら攻撃しているようにしか見えなかった。
もしかして殺す覚悟がない? 相手が自分を殺そうとしていたとしても、怪我をさせること自体に抵抗がある?
フラウは虫も殺せないやつだったということか?
「はぁ? おいおいおいおいおいおいおいおい! やっべーぞあれ! 何が起きてんだよ!」
色々考えていたというのに、龍翔崎が青ざめながら俺の特攻服を引っ張ってきやがった。 ため息混じりに視線を向ける。
「なんだ?」
「空見ろ! 空!」
俺は目を
「………………嘘だろ?」
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