第10話

「茶葉、集まったかよ?」

 

「わりぃ、ちょっと頭くることがあってな。 忘れちまってたわ」

 

「だろうな」

 

 先に部屋に戻った俺に、龍翔崎がにやけながら話しかけてくる。

 

 こいつ、何があったか察してるくせに、俺のことを茶化そうとしてやがる。

 

「そんなことよりよ。 これから俺らはフラウを手伝うって言っただろ? 具体的に何すんだよ?」

 

「聖王軍の動向が全く読めんからな。 それに、さっきの捕虜たちを見て気づいただろ? 恐らくこのまま行けば、敵は聖王じゃなくなるぞ?」

 

 俺は腕を組みながらさっき収容所で見た捕虜たちを思い出す。

 

「まず地図がねえと予想も立てられねえな」

 

 龍翔崎の問いかけに無言で頷くと、俺らが待機していた部屋の扉がゆっくりと開いた。

 

「あ、あの………………茶葉と紙、持ってきたわよ?」

 

 ポン子がモジモジしながら数種類の袋と、大量の紙が乗った手押し車を押して入ってくる。

 

 俺のことをチラチラ見てきているのには気づいているが、あえて知らんぷりをする。

 

 するとポンこの存在に気がついた龍翔崎は、眉を開きながら声を上げた。

 

「おいフラウ! 地図ねえか?」

 

「ち! 地図? あ、あるわよ! すぐ持ってくるわ!」

 

 顔を真っ赤にしながら部屋から出ていくポン子を見て、龍翔崎が一瞬首をかしげたのだが……

 

 数秒後、俺の表情を横目に伺いながらニマニマと笑い出した。

 

 面倒くさそうだからシカトして、ポン子が置いていった手押し車を部屋の中央まで持っていき、早速とばかりに茶タバコ造りに入った。

 

 俺と向き合う位置に移動して作業を始めながらも、龍翔崎はいまだなおニヤニヤとからかうように笑いながら声をかけてくる。

 

「おいおい! キザ男! お前さっき何したんだよ! あのフラウがあんなに静かになるなんてよ!」

 

「おい、口を開く前に手を動かせ。 茶煙草作りに集中しろ!」

 

 俺は素知らぬ顔をして、手押し車の上で茶煙草作りに集中し始めた。 するとフラウがまた恐る恐る扉を開きながら入ってくる。

 

「地図、持ってきたわよ?」

 

「ちょっと見せてくれや!」

 

 龍翔崎の返事にこくりと頷き、壁に地図を貼り付けるポン子。

 

 ポン子が地図を貼ってる間に、龍翔崎は茶葉と紙をある程度掴んで自分の近くにあった机に持っていった。

 

 俺はその場から動かず、張り出された地図を作業しながら眺めてみる。

 

 最初の説明で言われていた通り、魔王、聖王、海王の領土が他より一回り大きい。

 

 あとは魔王領と隣接している鬼王、骸王、大陸中央に位置する森王の領地が少し小さいくらいだ。

 

 他にもいろんな王がいるが、今名前をあげた王の領土以外は、たいして大きさは変わらない。

 

 俺たちが今いるこの砦は、魔王領の最北端に位置していて、聖王と鬼王の領土と接している。

 

 聖王の領地に獣王と森王の領地が接触していることを考えると、十中八九、あいつらは三国で同盟を結んでいるのだろう。 隣同士の国なのだからありえない話しではない。

 

 領土の広さから国力を計算すると、魔王軍は圧倒的に不利になる。

 

 無論この世界の地形や、各領土の特色、場所ごとの人口などは全くわからない。

 

 だとしても、魔王軍もどこかの王と協力するべきだ。

 

 魔王の領土と接触しているのは鬼王と骸王、それから空王と海王だ。

 

「鬼王と骸王とあるが、俺の想像だとこの二つは悪魔族や魔物族に近い気がするのだが?」

 

「ひゃ! ひゃい! あ、ええっとね? ほーおーいん君が言う通り、鬼王と骸王は元々魔王様の配下だったのよ!」

 

 俺の質問に対し、なぜかポン子は肩を跳ねさせ、時々声を裏返らせながら返事してきた。 心なしか頬も紅潮しており、チラッチラと俺の様子をうかがってきている。

 

 こいつのあだ名はポン子じゃなくて、チョロ子にしようかと考えてしまう。

 

「ほーおーいん君だぁ〜? なーんかいつの間にか呼び方変わってんじゃね〜か〜? なんかあったんですかね〜? ほーおーいんく〜ん!」

 

「おいロリコン崎、茶煙草が一本できたぞ。 火をよこせ」

 

「ちょっと待て! 俺はロリコンじゃねえっつってんだろ! つーか! 火なんてあるわけないだろうが!」

 

 龍翔崎が目の前にあった机を叩きながら立ち上がり、叩いた衝撃で真っ二つになった机から茶葉を舞い上がらせた。

 

「あ、ええっと! 火ならあたしが魔法で出せるわよ! あたしの炎なんかでよければ、遠慮なく使ってね? ほ、ほーおーいん君!」

 

「おいポン子。 さっきの一件は忘れろ、っていうか変な勘違いをするな。 とりあえずそのよそよそしい態度を今すぐやめろ! 尻尾踏んづけるぞ!」

 

 俺は出来上がった茶煙草を咥えながらポン子を睨む。 するとなぜか、尻尾をウキウキと波打たせるポン子。

 

 こいつまさか、尻尾踏まれるのが好きな被虐思考の変態だったとは。

 

「グフフフフ」

 

「おいロリコン崎、その気色悪い笑い方を今すぐやめろ。 あと茶葉を片付けろ。 勿体ねえだろうが!」

 

 俺の指摘を受け、悪戯に笑いながら茶葉をかき集め出す龍翔崎。 文句を言わず拾うことには少しばかり驚いた。

 

「おいポン子、早く火をよこせ」

 

「あ、はい」

 

 頬を真っ赤にしながら人差し指の先に黒い炎を出すポン子。

 

 俺はポン子の腕を掴み、勢いよく引き寄せ茶煙草に火をつけようとすると………

 

「きゃーーー! こんなところで何する気よ! あたし、まだ心の準備ができてないわ! ほーおーいん君の変態!」

 

 黒い炎が勢いよく燃え上がり、茶煙草もろとも俺の顔が燃えた。

 

 ………………沈黙。

 

「おい、ポンコツ。 歯を食いしばれ」

 

「ご、ごめんなさいでした」

 

 プルプルと震え出すポン子と、せっかく集めた茶葉を撒き散らせながらゲラゲラと腹を抱えて笑い出す龍翔崎。

 

 全く、煙草を吸うのも容易ではない。

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