第7話
俺が手加減なしの全力パンチで聖王軍をぶっ飛ばした。
ぶっちゃけ言うと、まさかあんなにやばいパンチになるとは思わなかったが結果オーライだ。
魔王の義娘とか言うラディレンってガキに案内され、砦の中に入って行く。
作戦室みたいな小部屋に案内されて、用意された椅子に座ると、ラディレンはさりげなく俺の膝の上にちょこんと腰掛けた。
「おいラディレン、お前の分の椅子それじゃねえのか?」
「妾は龍翔崎様のお膝がいいのじゃ!」
頬を朱色に染めながらにっこり微笑んでくるラディレンを見ていたら、断るのも野暮かもしれないとか思ってしまった。
親戚の子供みたいでなんか可愛いしな。
「おいロリコン崎。 あの聖王軍をぶっ飛ばした時に気づいたことはなかったか?」
「鳳凰院、てめえ後で覚えてろよ? っで? その口ぶりだとお前はなんか気づいたのか?」
俺はロリコンじゃねえ、ケツがでかい外人みたいな女が好きだ。
そんなことはどうでもいい。 すかしながら、兵士に出された茶を飲んだ鳳凰院がラディレンに視線を向けた。
「ここの指揮官、魔王の義娘だったな。 お前のその角、フラウとは形状が異なっているが、悪魔族の角は複数種類があるのか? それともお前は悪魔族の血が流れてないのか?」
鳳凰院に言われて俺も気がついた。
確かにフラウの角とラディレンの角は質感が全く違う。
フラウの角は動物っぽいが、ラディレンの角は鉄っぽい。
「妾は龍角族火龍科じゃからな。 龍角族の中でも火龍科は、一族もろとも聖王軍に皆殺しにされてしまってのう。 一人生き残ってしまい、行き場をなくしていた妾は魔王様に拾われたのじゃ」
俯きながら答えるラディレン。
この小ささで親だけでなく一族の仲間も殺されちまったのか。
しかし、妙だ。
名前的に龍角族ってのはドラゴンかなんかに近い人種だろう。
俺のチームが
そんなドラゴンが人間ごときに全滅させられた?
俺がただドラゴンひいきなだけかもしれないが、少しばかり納得いかない話だ。
とは言ったものの、そんなことを聞けるような雰囲気ではない。
表情を見る限りラディレンの話は嘘じゃねえだろうし、鳳雛院も梅干し食ったような顔で視線を逸らしていた。
「すまん、聞くのは無粋だったな。 非礼を詫びよう」
「気にしなくていいのじゃ! 妾は一族の仇を取るために強くなってみせるのじゃ!」
無理やり口角を上げるラディレン。
わずかな沈黙が場を支配し始めたタイミングで、ずっと黙っていたフラウが勢いよく片膝をついた。
「ラディレン様! 援軍が遅れてすみません! 本当は二千の兵たちとこの地に駆けつけるつもりだったんですが、聖王軍の勇者たちに遭遇してしまい、魔王様から預かった兵二千も蹴散らされてしまいました。 あたしが命からがら逃げていたところを、偶然通りがかったこの二人に助けてもらったのです」
フラウが頭を下げながらラディレンに報告をしている。
どうやら話す機会をずっと窺っていたらしい。
意外と空気読めるんだな、と感心した。
フラウの態度からしてラディレンは上司に当たるのだろう。
ラディレンは魔王の義娘と言っていたから、魔王の後継者になるんだろうから当然か?
「な、なんと! そなたも大変だったのじゃな。 龍翔崎様たちには魔王軍を二度も救っていただいたというわけかのう! 父に代わってお礼申し上げるのじゃ!」
「気にしなくていい、その代わり俺たちにこの世界のことを教えてくれないか? なんせこの世界に来たばかりで戦争のこともこの世界の常識も何もわからん。 このポンコツに聞いても説明が下手くそでな」
鳳凰院が気だるそうな顔でフラウを親指で指し示すと、フラウは不機嫌そうな顔で鳳凰院を睨む。
また喧嘩が始まるかと思って億劫になったが、ラディレンの手前、フラウは自重しているらしい。
「う〜む。 この世界に来たばかり? なんだかよく分からぬが、妾にわかることならなんでも聞くのじゃ!」
「それは助かる、ではここにくる途中聖王軍のフルプレートの下を覗いてきたが、少々気掛かりなことがあってな」
早速とばかりに鳳凰院が前屈みになりながらラディレンに語りかける。
俺がチヤホヤされていい気になっている間に、鳳凰院は聖王軍の違和感に気がついて調査を開始していたらしい。
おそらくあいつが気にしているのは、俺と同じ事。
聖王の能力から連想できる偏見だ。
「気掛かりなこと? フルプレートの能力はもう話したはずよ?」
「ポン子、お前には話していない。 話がややこしくなるから龍翔崎に遊んでてもらえ」
「おいこら鳳凰院! ナチュラルに俺を子守りみたいにするんじゃねえ!」
フラウは話し始めるとかなり面倒だから、こいつの面倒を見るのは勘弁してもらいたい。
「少し良いかの? 鳳凰院様? と申されたか、フルプレートの下と言っておったな。 なんのことじゃ?」
フラウが騒ぎ出しそうになったが、すかさずラディレンが鳳凰院に質問したおかげでフラウは口を窄めながら黙り込んだ。
一応黙ってはいるが、鳳凰院を超至近距離で穴が開きそうなほどガンつけている。
「聖王軍は人間族が多いと聞いていたが、獣のような耳を生やした者や耳の先が尖った者が見えた。 聖王軍にはそう言った人間も混ざっているのか?」
「獣のような耳? 獣爪族のことかの。 耳の先が尖っているのは森精族。 その二つはそれぞれ獣王や森王の管轄のはずじゃ。 本当にそやつらを見たのかの?」
ラディレンは額から汗を垂らし始めた。
鳳凰院の話から推測すると、フルプレートを装備していたのは映画とかでよく目にする狼人間とかハイエルフみたいな人間だったと言っているのだろう。
確かにそいつらは根本的に俺らとは種族が違う気がする。
鳳凰院の話が本当なら、魔王軍が戦ってる相手は本当に聖王軍なのかすら怪しまれてしまうだろう。
おそらく、鳳凰院も俺と同じ違和感を感じている。
ここにきて、フラウに話を聞いてからというものおかしなことが多すぎるのだ。
地図を見た限りだとこのシェラハート平原は、戦いやすいが重要拠点と言うまでの場所じゃない。
なのになんでフラウほどの強力な能力を持った人物が派遣されたのか。
そんな場所に運悪く出くわした勇者のパーティー。
龍角族という明らかに強そうな一族が、人間族ごときに滅ぼされたという話。
そしてフルプレートを着ていたせいで気がつかなかった、聖王軍の本当の正体。
「気になるのなら見に行けばいい。 俺が砦に入った時、兵士たちに言っておいた。 念の為、外でのびてる聖王軍を全て拘束し、収容所に入れておけとな。 指揮官に許可を取らず、勝手に命令したのはまずかったか?」
鳳凰院は皮肉な笑みを浮かべたが、ラディレンは勢いよく首を振った。
「そんなことはない、むしろ助かったのじゃ。 妾の至らない点を補助していただき感謝致す。 早速収容所に移動しても構わんかのう?」
ラディレンは俺の膝の上でソワソワし始めた。
「ああ、すぐに見るべきだ。 俺の予測だと、人間族は一人もいないと思うがな」
悪人面で笑う鳳凰院の一言を聞き、フラウとラディレンは顔面蒼白しながら立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます