第173話コンクール出場

 修学旅行が終わって、6月に入るといよいよ九州や本州でも梅雨の季節を迎える。毎日降り続く雨を眺めながら、一足早く本格的な夏を迎えている沖縄のことを思い出していた。また行ってみたいな…。そんなことを考えていた。

 修学旅行が終わって再び部活も2年生が復帰して、夏休みのコンクールに向けた練習も熱が帯びてくる。コンクールと言ってもどういうものなのか、昨年は私は参加していないのでわからなかったので、貴ちゃんにどういうものなのか聞いてみた。貴ちゃんは

「うちらはね、人数が少ないからアンサンブル部門に出場して、去年は銅賞やったよ」

と言うので、私はてっきり県で3位になったものだと思って、

「銅賞取ったってすごいんじゃないの?」

と言うと、清田が

「銅賞は参加した学校皆がもらえるもの」

だという。金賞を取るような学校は、音の響きが違うのだそうである。私はまだ初めて1年もたっていないので、せめてみんなの足を引っ張らないように頑張らなくては…。そう思っていた。やがて、7月に入って期末試験が行われ、梅雨が明けて夏休みに入ると、午前中は部活で学校に行って、昼からは学校の課題や宿題をこなして、それが終わるとどこかに出かけたりしていた。朝は6時ごろには新聞配達も終わるので、参加する義務はないのであるが、妹がまだ小学生だったので、妹の付き添いで近所の小学校までラジオ体操に付き添っていた。ラジオ体操が終わって家に帰ると朝食をとって、8時過ぎには部活のため学校に向かう毎日であった。そして、大阪から再び、山口にやってくるという連絡が入った。今回も柳井と一緒にやってくるという。今度は大阪から日本改造委に北上して、山陰側を通って私に言えでしばらく休んだ後、福岡から佐賀県北部を通って平戸の方をまわって長崎半島の野母崎を目指すという。そして島原半島を一周して有明沿いを北上して佐賀県南部を通って鳥栖から福岡県に入って山口までやってきたあと、鉄道で山陰側を通って大阪に帰るという。今回もスケールの大きな自転車旅行になりそうだなと思いながら、お互いの近況を報告しあっていた。来年は彼は大学進学のため、受験勉強に時間がとられてこられないだろうから、今動けるうちに好きなことをやっておきたいのだという。こうして、この年の新たな夏休みの楽しみが増えた私である。そして、7月の終わり、彼らが大阪の家を出発する日がやってきた。山陰側は山陽側に比べて起伏が激しく、行程も長いためかなりの体力を使うのではないかと思う。彼らが大阪の家を出る前に電話をかけてきた。私は彼の道中の無事を祈りつつ、頑張れのエールを送った。

 この年の私の夏休みの過ごし方と言えば、朝から新聞配達にラジオ体操と、かなりハードな日課をこなしていたが、若かったからできたことなんだろうなと思う。そんな毎日を過ごして、8月初旬に山口県吹奏楽連盟主催のコンクールが開かれた。ここで金賞をとった学校のうち、何校かが県を代表して中国地方ブロックに進出できることになっていた。会場には私以外はバスで向かい、私は佐々岡先生と一緒に楽器を積んだトラックに乗って、学校から車で1時間ほどのところの会場について楽器の運び出しをして会場でスタンバイ。各学校の発表が続いていく中で、初めてステージに出て発表するということに対して、初めての経験でもあり、かなり緊張していた。雰囲気にのまれていたというか…。私たちは規模の小さな吹奏楽部が出場するCの部に出場したのであるが、皆どの学校も小規模の吹奏楽部とは思えないほどの迫力あるサウンドを響かせていた。そんな中、私たちの発表の晩がやってきた。幕がおろされている間に楽器を用意して、楽譜を用意して、いよいよ幕が開いて、先生の指揮棒が振り下ろされた。私たちが演奏するアイネ・クライネ・ナハトムジークが始まった。最初の出だしは順調にこなしていよいよ中盤の小刻みな音符が連続する難しいパートに入った。私は途中からついていけなくなったため、下手に音を出すよりも演奏しているふりをしてやり過ごした方がいいだろうということで、途中で音を出すのをやめて、後半のサビの部分から加わって、何とか演奏を終えたが、

「多分銅賞じゃろうなぁ…」

と思っていた。やがて各学校のすべての演奏が終わり、結果発表が審査員から行われた。私たちの吹奏楽部の成績は私が思った通り銅賞だった。私にとって雰囲気にのまれて思ったような演奏が出来なかったのが悔やまれる結果となった。やがてコンクールが終わって、皆はバスで、私と佐々岡先生は再びトラックに乗って学校に帰って、その日は解散となった。家に帰ったら皆今日のコンクールのことが気になっていたみたいで、

「どうやったかね?」

などと聞いてきた。私は

「一生懸命演奏したけど、銅賞じゃったよ」

と話をするrと、皆

「一生懸命やったんならそれでいいじゃん。来年はもっといい賞がもらえたらいいね」

などと言って労ってくれた。

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