第169話沖縄への修学旅行
それからしばらくしてゴールデンウィークを迎えた。ゴールデンウィーク期間中も、コンクールに向けた練習があるので、午前中は部活動をして、昼から遊びに出かけ絵うというパターンが続いていた。なので、どこか遠くに出かけるというようなことはできなかったが、毎日学校で皆とわいわい言いながら過ごせるのが楽しかった。時々吹奏楽部OB・OGの先輩が部室にやってきて、一緒に音出しをするのも楽しくて、充実した毎日を過ごしていた。中でも、高田先輩や卒業して就職したばかりの小田先輩はちょくちょく顔を出してくれて、私たち後輩の指導にもあたってくれた。そして、ゴールデンウィークが終わって、中間試験の後の6月頭に行われたのが沖縄への4泊5日の修学旅行。博多港まで高速道路を通って、博多港からは沖縄の那覇港に向かうフェリーに乗船しての船旅であった。昼過ぎに博多港を出港して、那覇港に到着するのが3日後の昼過ぎと言う長い船旅である。出港した当初は波も穏やかでさほど揺れを感じなかった。
博多港を出港して、まずは進路を西にとる。九州の西側をまわって、長崎県沖を通って東シナ海に出た後、進路を南に向けるのである。だんだん西に太陽が傾いてきて、黄昏時を迎えた。見渡す限り海しか見えない状態で日没を迎えたのは、初めての経験であった。そして、人工的な光が船の灯しかない状態で夜空を見上げてみると、今まで見たことのないような満天の星空が広がっていた。私は船のデッキからしばらくの間星空に見とれていた。佐田や倉田たちが私を探しに来て
「おーいリンダ、風呂に入ろうぜぇ」
と言うので、
「おー。わかった。すぐ行く」
そう言って、クラスごとに決められた入浴時間に従って風呂に入っていく。船の中にある風呂に入るのは、小学3年生の時に、大阪南港から広島港までフェリーで山口に帰省した時以来である。私は船の揺れを心地よく感じながら入浴していたが、ほかのクラスメイトは船酔いする者が続出し、佐田や倉田、清田たちも
「気持ち悪い…」
などと言っていた。風呂から上がって、私が家から持ってきたトランプで遊んだ。女子も一緒になって遊んで、気が付くと消灯時間が迫ってきた。一緒にトランプで遊んでいたみっちゃんや直ちゃんは、私が全く船酔いしない様子を見て
「リンダ君、全然酔わんの?」
などと不思議がっていた。私は小さいころから乗り物酔いをしたことがなく、今回の船旅でも全くと言っていいほど平気であった。ユッキーやえっちゃんは
「いいなぁ…。まったく羨ましい…」
と言っていた。まぁ、乗り物酔いしやすい人にとっては、この3日間はある意味拷問のようなものだったかもなぁ…。と今になって考えるとそう思う。皆が船酔いで苦しんでいるさなか、私は気持ちよく眠って船で2日目の朝を迎えた。鹿児島県の西の海上を南下しているという。船の窓から見渡す限りの水平線が広がり、東の空を真っ赤に染めて太陽が昇ってきた。やがて太陽が完全に姿を現して強い日差しが照り付けてきた。ただ、甲板に出てみると潮風が心地いい。朝食の後のレクリエーションが行われて、船の中を見て回る催しがあった。機関室や操舵室などを見て回って、船長さんとも話をすることが出来た。沖縄の那覇港に着いた後、1泊して荷物の積み替えなどを行って、博多港に戻って一回の勤務が終わるという。船の現在地を示すレーダーなども見せてもらって、記念写真を写した。そして、その日の夕方、音楽部のステージ発表が行われた。ギターやベース、キーボードは博多港まで乗ったバスにもつめないほどの大きさでないのはわかるが、ドラムはどうやって積み込んだののであろうか?各パーツに分解して積み込んだのであろうか?音楽部のステージは主にロックを中心としたナンバーで、THE BLUEHEARTSやボウイ・洋楽のQUEENなどを演奏していた。みんな知っているナンバーばかりだったので、ステージは結構盛り上がった。そして、その日は暮れて行って2日目の夜を迎えた。ちょうど梅雨前線を横切る形となるため、次第に雨が強くなり、波も高くなって船は結構揺れた。これが船酔いで苦しむ皆には相当きつかったようで、船の寝室で寝ていると、夜中にドアが開く音がしたので、皆トイレに駆け込んでいたようである。翌朝起きてみんなと顔を合わせると船酔いで皆あまり眠れなかったようである。朝食の時にたまたま隣の席に座ったえみちゃんに話を聞いてみると、やはり船酔いがすごくてよく眠れなかったという。
「リンダ君はあれだけ揺れても大丈夫じゃったん?」
「俺?俺は何ともなかったなぁ。気持ちよく寝てたわ」
「なんか羨ましい…。」
そうして梅雨前線が横たわる海域を通過して、翌日の昼過ぎに那覇港に到着。下船の用意して皆が集まって、港に駐車していた観光バスにそれぞれ分乗。バスガイドさんの案内を聞きながら紺碧の美しいサンゴ礁が見える海を見ながら万座毛へと向かった。ここは沖縄を代表する観光地の一つである。ここから眺めるサンゴ礁の海は碧く澄み切っていて、美しいという言葉以外に浮かばなかった私である。私はクラスのカメラマンを頼まれていて、ここで何枚かすぐ近くにいたみっちゃんと直ちゃんをモデルにシャッターを切って、その写真は学校に帰った後担任の矢田先生にネガを渡して、卒業アルバムに、ほかの写真とともに収録された。この万座毛の美しさに見とれていると、やがてホテルに向かう時間になり、夕方5時ごろホテルに着いた。まだ夕食までは時間があるし、波も穏やかで明るいので、さっそく持ってきた水着に着替えて海へと繰り出した。山口ではまだ海に入ると肌寒いころであるが、私たちが訪れた時の沖縄は、山口ではもう真夏のような陽気で、十分海に入って遊べるくらいの温度であった。地元の人たちはまだ海に入る気にはならないらしいが…。
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