第168話高校2年・新入部員

 春休みが終わって、4月の半ばになって、山井(コーイチ・チューバ担当)・佐瀬(かずや・チューバ担当)・白河(優ちゃん・フルート担当)・氷川(りっちゃん・クラリネット担当)・小室(ヒロ・サックス担当)が加わって、幾分賑やかになった。皆私と違って、小学校や中学校から吹奏楽を続けてきた、私にとっては先輩であり、実力は吹奏楽を始めてまだ日が浅い私なんかよりは、はるかに上であった。私としては、もう一人トロンボーン担当が増えてくれたら嬉しかったのであるが…。というのも、金管楽器のユーフォニアムを演奏する部員がいなかったため、清田が曲によってはユーフォニアムを吹くので、その時はトロンボーンが私ひとりになるので、もう一人増えてくれたらなぁって思っていたのである。

 新入部員は全員経験者ということで、さっそくコンクールで演奏する、アイネ・クライネ・ナハトムジークの練習に取り掛かる。皆軽やかに演奏をする中で、私は相変わらず細かい音符に苦戦しており、何とかみんなについて行くために家に帰ったあとも楽譜を眺めながらイメージトレーニングをして、ゴールデンウィークの頃には何とか多少の音程のずれはあるが、ついて行けるようになった。そして、部活が終わった後は学校の最寄り駅までは皆で歩いて他愛のない話をしたり、ちょっと寄り道をして駅近くのお店でおやつを買ったりして青春を謳歌していた。駅で貴ちゃんやみっちゃん、優ちゃんやヒロ・りっちゃんと別れて清田と帰る道中では、誰々がかわいいとか、男同士で恋バナをしながら帰ったり、この当時のヒットチャートを賑わしていた音楽の話をしたりしながら帰っていた。この中で清田がファンだったのがTHE ALFEEで、私が杉山清貴さんやチェッカーズなどであった。新曲の発売予定やアルバムの発売予定などをお互い情報交換したりしていた。そんなある日、いつも通り部活を終えてみんなで帰っていると、末山がまたいちゃもんをつけてきた。末山は部活動はしておらず、帰宅部のはずであったが、先生の呼出でも喰らったのであろうか。私たちが歩いて帰っていると、自転車で追い抜きざまに

「おいリンダよ。お前新聞配達して金稼いでるんじゃってな。今度お前が稼いだ金を俺が使ってやるから、バイト代が出たら俺に持ってこい」

と言うものであった。いわゆる恐喝である。私は

「はぁ?なんで俺が自分で稼いだバイト代をお前にくれてやらんとならんのか?冗談はその顔と性格だけにしとけよ」

というと

「なんだと?テメェーは俺の言うことが聞けんっていうのか」

このやり取りを聞いていてりっちゃんが

「先輩、この人誰なんです?」

と言うので、私は

「あぁ、こいつは俺の出身中学でも札付きの不良で名の通ってたやつ。あまり関わらんほうがええよ」

そう言うと一緒に帰っていた部員全員から冷たく厳しい視線が向けられた。貴ちゃんやみっちゃんも

「リンダ君もこんな変な奴に絡まれて大変じゃね。なんでリンダ君に絡んでくるんじゃろ?」

「さぁねぇ…。俺にもわからん。まぁ、中学の時から恐喝とか暴力沙汰になるようなことをしてたやつじゃからね…。俺が自分の言いなりにならんことが気に食わんのじゃないかねぇ…?」

そして岡田先輩が

「リンダさぁ、金持ってくるように言われたんじゃから、先生に言った方がいいんじゃね?」

そう言うので、私も

「明日、こいつの学科の主任教官に言ってきます」

軽蔑の眼差しをみんなから浴びて、立場がなくなった末山は私たちを追いかけてくることはなかった。はっきり言って、私に何かと絡んでくるのは正直ウザかった。そして私は翌日、現金を持ってくるように脅されたと言って、末山が在籍している学科の主任教官につ立てて、末山は停学1週間、同様な行為を繰り返した場合は退学処分にするという厳しい処分が下された。流石に退学処分になってはまずいと思ったのか、これ以降私に現金を持ってくるように脅迫することはなくなったが、それでも何かにつけて私に絡んできては、脅しともとれるような言動を繰り返していた。私は相手にするのもばからしくなっていたので、何を言ってきても無視していたが。

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