第167話アイネ・クライネ・ナハトムジーク

 それから数日後、私と清田が学校から帰るのに、学校の前の坂道を自転車で下っていると、末山が私を呼ぶ声が聞こえた。清田は

「誰かお前のこと呼んじょらんかったか?」

と言うので、私は

「あぁ、あいつは中学時代からの札付きの不良じゃ。あんな奴と関わるのは嫌。無視無視」

そう言って、末山の声は聞こえなかったものとして無視してそのまま帰宅した。

 翌日、清田と一緒に帰っていると、清田の自転車のチェーンが外れて、チェーンを元に戻していると末山が私たちに追いついて、

「お前、昨日俺が呼んでも無視しやがったよな。ええ根性しちょるの」

などといちゃもんをつけてきた。私は

「はぁ、そんなこと知るかボケ。俺はお前をかまっているほど暇じゃないんじゃ」

と言うと、末山は

「なんじゃとコラァ。お前俺にたてつく気か」

そこへ清田が

「悪い。自転車がやっと直ったわ。ハアーン?こいつがお前が言う、札付き不良か」

などと言いながら、末山としばらく睨み合いをしていた。私が

「ほっといてさっさと帰ろうぜ」

そう言って、私は末山を置き去りにしてそのまま帰った。末山はさらに私に何か言っていたようであるが、何を言っているのかまではわからなかった。高校生になってもいまだに不良をやっている末山に対して、いつまでもそんなことが通用するわけがないと思った私である。また、中学時代から相手を威嚇することでしか、自分の強さを見せつけられない詩型が、逆に哀れであった。

 やがて季節は巡って3月1日。県内一斉に高校で卒業式が行われた。私は校歌演奏のため、吹奏楽部の部室に集合して、楽器を体育館に運び出して演奏の準備。楽器の他に譜面台やいすなども用意して、2階部分で卒業式の進行を見ていた。やがて先生の校歌斉唱と言って、私たちが演奏する校歌とともに、卒業生や先生たちが校歌を歌う。無事に演奏し終わって私たちの役目も終わったが、卒業式が終わるまでは動けないため、そのまま2階部分で待機。卒業証書の授与も終わってから私たちは楽器を音楽室に戻して、その日の役割はすべて終わったが、3月とはいえ、かなり冷え込む。寒さに震えながら部室に戻って昼食に持参した弁当を食べて、その日は帰宅。そして3学期の終業式を終えて高校1年が終わった。春休みが始まったからと言って部活が休みになるわけではなく、今度は夏に行われるコンクールの曲の練習が始まった。この年の夏に演奏することに決まった曲は、モーツァルト作曲のアイネ・クライネ・ナハトムジーク。軽快なリズムが特徴のこの曲であるが、細かい音符がかなり多くて、私にとってはかなりハードルの高い曲であった。まずは店舗に遅れないようにするので精いっぱいで、まだ上手い下手とか言えるような段階ではなかった。私がこの曲で重点的に取り組んだのが細かい音符の特に多い中盤。トロンボーンのスライド位置が正確に会ってないと音程がずれるため、まずは速いテンポでもスライドを正確に合わせることに注力したのであるが、これがかなり難しく、苦戦した。来る日も来る日も同じところの反復練習。毎日練習して少しずつ細かい音符も刻めるようにはなっていたが、まだまだ満足のいくものではなかった。私の通った高校の吹奏楽部の練習は、まずは木管楽器と金管楽器が分かれてパート練習をした後、音楽室で全体練習をするというスタイルがとられていたが、トロンボーンは私と清田の二人で、貴ちゃんとみっちゃんがホルンとトランペットで加わり、ほかに3年生になる岡田先輩が加わる、6人と言う小所帯であり、なかなか迫力のあるサウンドを響かせるということが出来なくて、苦労していたのであるが、周防総額の練習に明け暮れて私たちは春休みを終えて、高校2年生へと進級したのである。

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