第157話星田・柳井との再会

 それからしばらくたって、星田から

「今大阪を出発した」

と言う連絡が入った。山陽地方を西に向かって走り、瀬戸内海の風景を見ながら、8日後に着く予定だという。途中には起伏の激しいところもあるので、あまり無理のない工程を組んだらしい。連絡があったときに

「自宅最寄り駅で待ってる」

と告げて、着いたら私の家に電話することになった。地図を見ながら

「今はどのへんかな?」

といろいろと想像しながら待っていた。大阪を出発したという連絡があってから8日後の昼過ぎ、星田から

「今最寄り駅に着いたから、迎えに来てほしい」

と言う連絡が入って、私は自転車に乗って迎えに行った。私が行ってみると、真っ黒に日焼けした2人が待っていた。

「おぉ。無事に着いたか。お疲れさん」

「久しぶりやなぁ。小学校卒業して以来やもんな。元気にしてたか?」

「俺は元気やで~。めっちゃ遠かったやろ早う家に入ってゆっくりしようや」

「リンダも変わってへんなぁ。あれから4か月がたって、高校生活楽しんでるか?」

「あぁ、俺は自分の好きな化学実験が毎日できるから、めっちゃ楽しいで」

そのような話をしながら家に向かった。最寄駅からは自転車で10分ほどかかるので、星田と柳井にはもうひと踏ん張りしてもらって、家に着くと、この日は仕事が休みだった父と姉が出迎えた。

「久しぶりやなぁ。二人とも元気にしとったか?」

「おっちゃん、お久しぶりです。俺らは元気にしてますよ。おっちゃんも変わってないですね」

「星田君・柳井君久しぶりやねぇ…。やっぱり高校生やなぁ。ごっつい背が伸びてるやん」

「お姉さんも久しぶりやなぁ。お姉さんはやっぱり高校でも陸上部?」

「そう、私は走高跳やってるよ」

などと話しながら2人を迎え入れて、母も仕事から帰ってきて、7人での賑やかな夕食。私にとって4か月ぶりに聴く、生の懐かしい大阪弁。小学校時代からの親友を前にすると、やはり童心に帰る。懐かしい昔話や、まる一日かけて紀伊半島を一周したときのことや、HOゲージを一緒に製作したこと、いろいろと懐かしい話に花が咲いた。そして、父は若いころに自転車旅行をして、日本各地をめぐっていたので、二人がどのようなルートを通ったのか興味があったみたいで、詳しいルートを聞いていた。

 険しい山道が続く山陽本線沿いの船坂峠や、瀬野八越え区間をさけて、相生から赤穂線に沿って走り、三原からは呉線沿いに走ってきたそうである。まずは疲れを落としてもらおうということで、風呂の用意をして入ってもらって、その日は早めに就寝した2人、やはり長旅の疲れがあったのであろうか、すぐに眠ったようである。翌日は星田と柳井が新聞配達についてくることになった。前の晩

「俺らも一緒に着い行くさかい、起こしてや」

と言っていたので、私は4時半に彼らを起こして、3人で新聞販売店に向かった。店長さんが

「今日は3人で来たの?」

と言うので、私は

「はい、私の大阪に住んでいた時の友人です」

と紹介し、2人も簡潔に自己紹介して、最初の家に向かった。私が住んでいる地区は会社の寮やマンションなどがあって、一度に持ち運んでいく量が多いところもあったので、いつもなら1人で抱えて持っていくところ、3人がかりで持っていったので、かなり楽であった。さらには薄暗いところもあるので、小さい懐中電灯を使って道を照らしていかなければならないところ、もあって、転倒などには気をつかっていた。中には道が暗いからと言って、私が新聞をポストに投函するころになると、玄関の電気をつけてくれる方もいて、そうした小さな心遣いに嬉しさを感じた私である。ただ、夏の夜明け前とはいえ、自転車をこいでの配達はかなり暑い。家に帰るとシャツを着替えて、朝食を済ませてゆっくりとしている私たちであった。

 新聞配達から帰った後、父と母は仕事でいないし、姉も部活があっていないので、私たちは自転車で家委の周りをぶらつくことになった。私の家の周りはこれと言った名所があるわけではないが、大阪にはない、田園風景が広がっていて、今では私の住んでいるところは市の郊外として宅地開発が進んで、家が立ち並んでいるが、この当時はまだ宅地開発があまり進んでおらず、のどかな田園風景が広がっていたのである。

 家の周りを案内して、夕方になって父が帰ってくると

「湯田温泉に入りに行こう」

ということで、母が仕事で使うのに、レックスに代わって購入した中古のシャレードに乗って山口市内の中心部にある湯田温泉まで車を走らせた。男4人で行ったのであるが、やはり広い温泉は浸かっていると気持ちいい。のんびり風呂に浸かっているとだんだんのぼせてきて暑くなってきたので、一足先に私は風呂から上がって、自動販売機で冷えたジュースをごくりと飲んで、ほかの3人が上がってくるのを待っていた。私が上がって10分ほどたってから3人が上がってきて、扇風機で涼みながら火照った体を覚まして家に帰った。家に帰ってから3人分の布団を並べていろいろ話をした。なんでも渡部や浜山は、私に対してどうしても自分がやったことについて謝りたいと言っているそうである。なので、わちゃしが同総会の参加についちぇ拒否したことを非常に気にしていたということであった。そして渡部と浜山から

「いつかみんなで同窓会が開けるようになったらいいな。リンダが大阪に帰れる日が来ることを心待ちにしてる」

と言うメッセージを受け取ったそうである。渡部や浜山は自分が行ったことに対して申し訳ないという思いを抱いているのかもしれないが、残りの中井や天田、増井や湯川、久保はどう思っているのか、」それが伝わってこないのが私は怖かった。そして私がたまたま大阪に帰省したときに、中井が私を見かけて

「あ、リンダちゃうか」

と言う声を聞いたが、その声からは、とても反省しているようには思えなかった。なので、

「渡部や浜山はそう言うてるかもしれへんけど、ほかの奴らがどう思うてるのか、わからへん限り、ちょっとあいつらに会って平静でいられる自信ないなぁ」

「でもな、楢崎先生もお前のこと心配しとったで。元気に暮らしているやろかって」

「楢崎先生にはだいぶ助けてもらったからな。いつかは先生に会ってお礼言わなあかんのんやろうけどな。今はまだちょっと同窓会に出るのは怖い気がするねん」

「まぁそうかぁ…。無理に今は帰って来んでもええけど、いつかは皆で笑いあえる日が着たらええな」

そんな話をしていた。そしていつしか皆眠りについていた。

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