第136話受験生の夏休み

 やがて、2週間の停学処分が終わって、田伏が学校にやってきた。田伏が来ると、妙にクラスに変な緊張感が漂っていて、それを田伏自身も感じ取っていたのか、

「俺が学校に来ちゃいけんのかよ」

などと不満を爆発させていたが、皆から敬遠される理由は、田伏自身にあることに気が付いていたのだろうか。一方田伏といつも一緒につるんでいた重田は田伏にゴマをするように言い寄ってはご機嫌をうかがっていた。田伏が停学を受けていた間は、シュンとしていた重田であったが、田伏が登校してくると待ってましたとばかりにすり寄っていた。重田も大して強くないのにズボンはだぼだぼで、カッターシャツも明らかに学校指定の物とは違うものを着てきていた。まるで田伏のコピーのようであった。そこまでして田伏にすり寄る理由は、自分を強く見せたいから他ならなかった。

 やがて、1学期がも終わりを迎え、2学期の委員の選出や班長の選出、そして班の人員などを決める時期がやってきた。私は交通委員に立候補して、すんなりと認められた。そしてやはりもめたのが田伏を誰の班員として迎え入れるのかということであった。班長は男女それぞれ3人ずつ選出で、女子の班長は軒並み受け入れを拒否。よって男子の班長の間でくじ引きによって田伏を受け入れる班を決めることになった。幸い私は田伏と違う班になったのでよかった。柳本も田伏とは違う班になって安どしていた。柳本が言った一言

「これで田伏とは離れられる」

これが田伏の怒りを買って、再び暴力沙汰を引き起こして、1学期の間の出席が禁止された。柳本の気持ちもわからないではないが、これは柳本も不用意な一言だったのではないかと思う。ただ、どんな理由であれ、殴った本人が一番悪いのには変わりない。これがのちに彼が就職するうえで、暴力沙汰を引き起こしていたこと、人の金品を盗んでいたこと、タバコを吸っていたことなどが影響して、就職先を見つけるうえで難航を極める大きな理由となったのである。

 そして1学期が終わって、夏休みに突入。夏休みに入ったからと言って、中学3年生の私は浮かれているような余裕などなく、図書館に行って勉強したり、勉強でわからないことがあったら、百科事典を引っ張り出して調べたりして、午前中は勉強に充てる時間の方が多かった。先生の話では、私が希望している高校の学科は倍率が2倍となっていて、かなり激しい競争になるという話であった。なのでどこかに遊びに行くということなど考えられなかった。時々一息つくために友達の家に行くくらいであった。一足先に受験を経験した姉の話では、夏休みの努力次第で、大きな差が出るということであった。言われてみれば姉も夏休みに入ったからと言ってどこかに遊びに出かけるとか、そんなことはしてなかったと思い、私も今のこの時期に頑張っておかないと後でしんどい思いをすると思っていたが、時々勉強に嫌気がさして

「いっそのこと、高校も義務教育にしてくれりゃあいいのに」

などとぼやいたりしていた。時々柳本の家に行っては、彼が得意な数学と英語の勉強を教えてもらったり、逆に私が得意な地理歴史や理科の勉強を教えたりしていた。そして勉強が終わると、彼の家に会ったパソコンでゲームをして遊んだり、図書館まで一緒に行ったりしていた。

 ただ、勉強ばかりで家に閉じこもっていてはあまり体にもよくないということで、時々父が

「SL写しに行かんか」

などと誘ってくれていたが、私としてはそんな時間的な余裕ば度あるわけなく、夏休みのほとんどを勉強に費やしていた。

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