第132話社会見学

 その社会見学の世話役と言うのは、しおりを作ったり、簡単な説明文を書いたりして、行く先の歴史や地理、観光名所、自然風土などを紹介するものであって、私の得意分野であった。それからバスで移動する際の席の割り振りをどうするかということもあったが、やはり一番問題になったのが、田伏と誰を相席にするかということであった。女子は女子同士で一緒の席になるように決められており、男子の中で誰かが田伏と相席にならなければならないのであるが、はっきり言って、誰も一緒になりたがる者がいない状態であった。そうした中で私に一つの考えがあった。田伏にいつも引っ付いている重田に相席させようということを提案すると、皆からも賛同が得られた。それも田伏がほかの生徒に嫌がらせをしないように、最前列にするか、最後尾の席にするかで話し合いが行われた結果、田伏と重田は先生の目が届きやすい最前列の席に座らせることにした。座席の割り振りを作って、皆に配ったが、当然田伏と重田からはブーイングが出た。だからと言って座席の割り振りをいまさら変える考えはなかったので、私が

「参加したくないんじゃったら、参加をやめたら?」

と言うとおとなしくなった。所詮強がって見せているが、一人では何もできない気の小さな男なのである。座席の割り振りも決まって、いざ社会見学当日。行先は関門海峡を臨む赤間神宮。ここは源平の合戦に敗れ、幼くして命を落とした安徳天皇をまつっている歴史ある神社で、通年大勢の観光客が訪れる、下関市の観光名所となっている。

 観光バス10台をチャーターして、中国自動車道を走って、下関インターで降りて赤間神宮へ。関門橋が見え、対岸には九州の島影が見える。この当時、まだ九州には、行ったたことがなくて、一度は行ってみたいと思っていたのであるが、これは6月初旬の修学旅行で実現することとなる。

 赤間神宮からほど近いところには絶景スポットとして知られる日の山があり、そこにも行った。記念写真を写したり、仲のいい者同士、お昼と一緒に食べたりして過ごした。火の山山頂にはお土産屋さんなどもあって、観光客が大勢お土産を買っていた。私たちは乏しい小遣いの中からお土産を買って帰る余裕などないため、眺めてるだけであった。数々の歴史の舞台となった関門海峡を眺めながらひと時を過ごした後、バスに乗って学校へ帰ってきた。そしてこの後、田伏と、他のクラスとなった糸田と末山に、高島と言った不良仲間がほかの生徒を恐喝して、現金を脅し取っていたことが判明したのである。皆そんなに多額の現金を持ってきているわけではなかったので、

「100円出せ。いうことを聞かないと殴る」

などと言って脅しをかけたというのである。一人一人100円と少額であっても、人数が増えれば、それなりに集まるもので、被害金額は合計で5000円頬度程になったという。恐喝して奪い去った金は、田伏らがゲームセンターで遊ぶために使われたようである。この事実が発覚した後、田伏や高島と言った不良グループの親が学校に呼び出されて、厳重注意処分を受けたということであった。これが高校であったなら、義務教育ではないため、停学か退学処分が下されていたのではないかと思う。まぁ、田伏たちはやりたい放題であった。

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