第130話姉の高校入試

 この後すぐに姉は市立高校の入学試験を受けた。私立高校の中でも、県内有数の進学校で、姉は面接と筆記試験に臨んで、入試が終わってホッと一息ついているようであった。入試が終わって1週間で合否の通知が届いていた。姉は手を合わせながら慎重に封筒を開けると、そこには合格通知が入っていた。姉もこれで高校進学の道が開けて安心していたようであった。ただ姉の本命は公立の女子高。私立高校の合格に浮かれることもなく、翌日からは再び受験勉強に励んでいた。やがて3月に入って公立高校の入試が行われた。当然のことながら3年生はほとんどが公立高校の入試を受けるので、学校内に3年生の姿はなく、いつもに比べたら学校内は静かであった。私も授業を受けながら

「今頃どんな問題を解いているのかなぁ…」

と、気になっていた。時計を見ながら

「今はこの科目の試験の時間か…」

などと考えていたら、入試の終わる時間がやってきた。入試が終わると3年生はそのまま学校によることなく、そのまま家の帰るので、この日は3年生が学校に姿を見せることなく、私たちの授業もいつも通り終わって、家に帰ると姉が先に帰っていた。姉に入試の手ごたえを聞いたところ、

「多分受かってると思う」

ということであった。姉としては満足のいく入試だったのだろうと思う。

 まずは姉の高校入試が終わってホッとした空気が流れている我が家であった。受験生が家にいるというのは、知らず知らずのうちに何かと気をつかうものである。そして入試から1週間後、合格発表の日。私が学校から帰ると無事に合格していたことが伝えられた。これで姉は4月から高校生になることが決まった。合格発表の後に行われた卒業式。私は総務委員と言う立場上、在校生を代表する形で立ち会うことになった。3年前小学校の卒業式にも在校生代表ととして立ち会ったが、再び姉の卒業式を見送ることになるとは思ってもみなかった。卒業式では卒業証書を受け取って、校長先生や来賓の挨拶や在校生の送辞に卒業生の答辞などが行われ、卒業式は滞りなく終わって、姉は一足早く春休みに突入した。


 姉の卒業式が終わって少したって、私も春休みに入った。3年生への進級の時はまた、クラス替えが行われることになっており、私は糸田と末山と同じクラスにはなりたくないと思っていた。

 春休みになると寒さもだいぶん緩んできて、やがて桜の季節を迎える。山口に引っ越ししてきた当初は、桜の花を見るのは、小学校の時の辛い記憶がよみがえってきて、観るのも辛かったが、2年たつと少しは心の傷も癒されてきたのか、桜の花を見て、素直にきれいだと思えるようになっていた。山口に引っ越ししてから2年。まだあの当時の辛い記憶から、悪夢にうなされて飛び起きることは続いていたが、

「死にたい」

と思うことは減っていった。死にたいと思う以外にやらなければならない子おtが増えてきたことも関係しているのかもしれない。この春休みは姉も高校に受かったことであるし、近所の公園で花見をしながらBBQをしようということで、大阪から引っ越すときに持ってきたBBQセットを持ち出して車に積み込んで、私たちは自転車では南紀の海上へ。母が車を運転してきたので、父はビールで、父以外はジュースで完敗して春のうららかな日差しの下、BBQを楽しんだ。そして、姉の高校の合格を親せきにも知らせて、母の実家には挨拶しに行ってきた。祖父が亡くなって以降、久しぶりの明るい話題に、祖母も叔父も叔母も喜んでいた。

 2年生の3学期は無理やり総務委員をやらされて、しかも糸田や末山と言ったろくでもない奴らに議事の進行を妨害されて、散々苦労した2か月余りであったが、こうして私は総務委員から解放されて、ようやく安どの春や差うみを迎えたのである。

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