第122話臨時学級会と恐喝事件

 授業参観が終わってからクラスの中は少し落ち着きを取り戻してきた。糸田や末山たちの授業妨害工作も、他の皆がついてこなかったため、どちらかと言うと不発に終わり、クラスで話し合った結果、授業妨害をした本人たちが謝りに行くという形で終わりを迎えた。女子からは糸田たちの日ごろからの態度に不快感を示す者もいた。特にT君のズボンを脱がせて下半身を露出させて、女子を追いかけまわさせることにかんしては、非難が集中していた。しかし、これで糸田たちがT君への脅迫や恐喝をやめることはなかった。そしてこれに便乗して、他の男子も面白がってT君を脅迫する行為が見られるようになった。そして、このことで臨時の学級会が開かれた。その中で糸田と末山たちがなぜT君に対するこう攻撃をやめないのかその理由を問われると、

「リンダ君に脅かされてます」

と言うのであった。私にとっては寝耳に水な話であり、第一、私が糸田や末山たちを脅してT君にそんなことさせても何の得にもならない。私は

「はぁ?そんなんするわけないじゃん。なんで俺がそんなことしなければならないのか?」

このことにほかの女子も加わって、

「私はリンダ君がそのようなことをしたところを見たことがありません」

「とにかく、T君へのあのようなことを脅してやらせるのはやめてもらいたいです」

このときは徹底的に糸田と末山は凶弾されていた。そしてこれ以降T君を脅してズボンを脱がせて女子を追いかけまわさせるという行為はなくなった。ただし、これでT君に対するいじめがなくなったわけではなく、暴力行為は続いていた。そして、それは私がいないときや、先生が見ていないところで陰湿に行われていた。私が渡部や増井たちから受けていたいじめと同じく、腹や背中など、直接人目に降らないところを集中的に狙って蹴りを入れたり、殴ったりを続けていた。

 そんな6月のある日、T君がしきりに下腹部を抑えていたがるので、不審に思った私が

「T君、ちょっとおなかを見せて」

と言って、人目につかないところで確認してみたところ、青痣ができていた。これは放ってはおけないと思った私は、T君を保健室に連れて行って、保健室の先生に治療してもらって、福井先生を呼びに職員室に行った。私が直接見たわけではないが、おそらく糸田たちにやられたものだろうと思った。そして福井先生がT君に

「誰にやられたの?」

と聞くと、T君は

「糸田・末山・市岡」

たどたどしい言葉ではあるが、加害者の名前を挙げていた。そして再び学級会が開かれた。

「T君に危害を加えた物は名乗り出なさい」

先生は自発的に名乗りを上げるように言ったが、誰も名乗り出ない。先生は

「誰か、T君が暴力を受けているところを見た人は正直に名乗り出なさい」

そう言っても糸田や末山・市岡たちの報復が怖いのか、誰も手を挙げる者はいなかった。そのころ保健室で治療を終えたT君が保健室の先生に付き添われて教室に戻ってきた。先生がT君に

「おなかを誰に殴られたの?」

と聞くと、再び

「糸田・末山・市岡」

と答えていた。その後福井先生は

「T君を殴ったのか?」

と聞くと、糸田たちは

「そんなことしてない」

と言う。そして糸田たちは

「T君、俺、殴ってないよな?」

と、顔はにこにこ笑いながらではあるが、明かに威圧的な態度でT君に聞いていた。T君は自閉症特有の症状である、オウム返しにしか答えられないということを逆手にとられて、

「殴ってない…」

と答えてしまった。

「先生、ほら、T君はこういってますよ。僕たちは殴ってないです。ほかの誰かがやったんじゃないですか?」

などと明らかにシラを切るような態度を見せていた。先生もこれ以上深く追及することはできないと判断したのか、糸田たちに

「普段から疑われるようなことをするな」

と注意して、この場は収まりかけたが、演劇部の竹山が

「私、糸田君たちがT君を殴っているところを見ました」

と、勇気を出して告発した。これをきっかけで竹山以外にも、ちょっとつっぱっている村田やほかの女子も続いて告発した。そのことで再び糸田たちへの厳しい詰問が行われた。もう私から脅かされたためにやったという言い訳もできない。女子からも言い逃れのできない目撃情報を寄せられて、3人には厳しい注意がなされた。

 これを境にT君がいじめ被害にあうのは少しずつではあるが減っていった。しかしこれでクラスの中の問題がすべて解決したというわけではなかった。T君へのいじめ行為が減っていった代わりに、他のクラスメイトに対する恐喝まがいな行為が起こりだしたのである。今まではストレスのはけ口がT君へとむけられていたのであるが、そのはけ口がほかの気の弱そうなクラスメイトに向けられた。私は趣味がよく合うので、柳本とか佐山とかと一緒にいることが多かったが、柳本に

「明日金持ってこい」

などと脅しがかけられたそうである。その脅しは私にも向けられて、

「明日1000円持ってこい」

などと言われたことがある。私は

「なんでお前らに金持ってこんにゃならんのか」

と言うと

「俺らが遊びに使う金がねえんだよ。グダグダ言わんでええから金持ってこい」

などと言っていたが、私はきっぱり拒否した。ただでさえ家の中はそんなに裕福ではないのに、他人にやるような余裕なんてあるわけなかった。私は

「どんな理由があろうが、俺は拒否する。お前らに恵んでやるような金なんてねえよ」

そう言って無視して家に帰った。翌日、糸田と末山が脅しをかけたクラスメイトから金を持ってきたかどうか聞いて回っていた。脅しに屈して金を持ってきたものがほとんどであったが、私は持って行かなかった。私にも金を持ってきたかどうか聞いてきたが、私が持ってきてないと知ると、怒りを込めて

「なんでてめぇは持ってきてねぇんだよ。俺らの言うことが聞けねぇのか‼‼」

などと言ってきたが、私は聞く耳を持たなかった。

「俺は昨日拒否したじゃろうが。なんでお前らの遊ぶ金のために自分の小遣いを持ってこんにゃならんのか。自分らの遊ぶ金が欲しけりゃ、自分らでどうにかすれば?」

そして、このことはクラスの女子からの通報で福井先生に知らされて、先生は脅し取った金を全員に返金させて、そのうえで

「あんたたちね、このままこんなこと繰り返してたら、高校進学にも影響が出るんよ。内申書にどんな影響が出るかよく考えなさい。高校に進学できんでもいいの?」

などと話していた。流石に内申書に影響が出るとなると、高校進学ができなくなるため、この後、金を脅し取るような真似はしなくなったが、中間試験の時にある事件が勃発する。6月に行われた中間試験で、出席番号順に並んで、私の右斜め前が末山の席であった。私は席について答案用紙が配られるのを待っていた。そしてチャイムが鳴ると同時に試験が始まり、私が答案用紙に答えを書き込んで、、ふと顔をあげて、右斜め前に座った末山の方を見てみると、何か怪しい行動をとっている。しきりに後ろの席に座っている西田の方を見ては答えを書いていた。完全にカンニングしていたのである。まぁ、どうせカンニングが発覚しても怒られるのはあいつだから関係ないと思い、私は放っておいた。そして2時限目のテスト開始を待っていた。、休憩時間の間、教科書を確認したり、復習してきたノートを確認したりして、次のテストに備えていた。そして2時限目のテストが始まった。幸い私が復習してきた範囲の問題が出されたので、比較的簡単に問題を解くことが出来た。そのため時間よりも早く答えを書き終わったので、記入ミスや書き間違えがないか確認をしていたところ、末山が小さな声で

「お前、テストの答え書き終わったんか?だったらちょっと答えを見せろや」

などと言っていた。ここで私が何か話せば、私がカンニングしたと思われかねないため、私は無視していた。さらに末山が答えを見せろと言っていたが、私は何も末山の要求に応えず、無視していた。末山もあまり私に話しかけると、カンニングしているのがばれると思ったのか、何回か答えを見せろと言ってきたあとは何も言ってこなかった。テストが終わった後

「テメェー。俺が答え見せろと言ったのに無視しやがって」

などと言ってきた。私は

「なんでお前に答えを見せんといけんのんか。そんなんして俺がカンニングに協力したってなったら、俺の成績まで影響が出るじゃろうが。ふざけんな」

と言って突っぱねた。その後答案用紙が返却されて、末山がカンニングしたことが発覚する。そう、末山と、後ろに座っていた西田の答えが全く一緒だったのである、この行為により、末山の得点は点となり、1学期の成績の評定に影響が出たのである。カンニングを行った後の代償は大きかった。

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