第121話授業参観
そんなある日、授業参観が行われた。保護者がやってくる中で、T君のお母さんが私に声をかけてきた。
「息子がいつもお世話になっています。助けてくれてありがとうございます」
と言われた。私は
「いえいえ。俺はごく普通に接してるだけですよ。」
そう言った話をした。この時点で私が疑問に思っていた、T君がこの学校に通うことで、激しいいじめにあっていることについて、どう思っているのか、聞いてみようと思ったが、何か聞いてはいけないような気もしたので、聞けずじまいであった。養護学校(現在の総合支援学校)の定員に空きがなかったのか、それともほかにこの学校に通わさなければならないはっきりとした理由があったのか、それは今でも深い疑問として私の中で残っている。以前、普通の学校に通わせたいという思いもあったって伺ったことがあったが、身体的な暴力に加えて、罵声や罵倒をされている中で、どのように思っていたのか。T君が辛い思いをしている中で、私にはどうしても聞くことが出来なかった。私がT君にしてあげられることはたかが知れており、同じような境遇の子供たちが通っている養護学校の方が、T君にとっては幸せだったのかもしれないなと思っていた。
そんな中授業参観が始まったが、授業の時間中もクラスの中が騒がしく、梅田が
「いつまでも騒いでんじゃねぇよ。静かにしろや」
そう騒がしいクラスを一喝して、クラスの中がようやく静かになった。これは授業参観に合わせて、糸田と末山が企てたことで、授業妨害を目的とした嫌がらせであった。多分T君に対していじめを加えることで、しょっちゅう先生から怒られているため、その報復だったのではないかと思う。この荒れた授業参観に、福井先生は怒りを露わにしていた
「今までこんな恥ずかしい授業参観は見たことがない。もう私はあなたたちのことは知らないから、好き勝手にしなさい」
そう言って教室から出て行ってしまった。授業参観は先生が不在となる異例の事態となった。集まってきた保護者からは数多くの非難が糸田と末山に向けられた。授業の修了するチャイムが鳴り、休憩時間に入って糸田と末山が
「リンダ、お前がセンコウに謝りに行け」
と言うので、
「はぁ?なんで俺が?俺が何したって言うんか?授業妨害したのはてテメェーじゃろうがてテメェーが謝りに行けや」
「リンダがクラスの代表として謝りに行けや。俺らが行ったって、センコウは帰って来んやろうから」
などと言ってきた。私はふざけるなと思ったので
「クラスの代表をして行くんじゃったら、学級委員をしてる海老田じゃねぇのかよ。なんで俺が悪いことしてねぇのに、謝りにいかんといけんのか?意味わからんし」
「テメェーが謝りに行けばいいんだよ‼黙って言うこと聞かねぇと…」
「ほぉ。俺を殴るっての?だったら殴ってみろや。言っとくけど、俺の親は自分の子供に何かあったら、テメェーらのことは情け容赦しないからな。ぼっこぼこに殴られて、どやされてもいいくらいの覚悟があるんじゃったらやってみれば?」
そう言ってやると、私に謝りに行けとは言わなくなった。恐らく私に謝りに行けと言ったのは自分の内申書にこのことが書かれるのを恐れたのではないかと思う。内申書に授業中の態度がよくないと記載されれば、高校進学の時に不利になるので、それをなかったことのようにしようと考えたのではないかと思う。しかし、私が先生に謝りに行ったところで、授業を妨害した本人が謝りに来ない以上、先生は納得するはずもないと思っていた私である。そしてこの後、臨時の学級会が行われ、さらには恐喝事件が勃発する。
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