第119話社会見学
そんな中、社会見学ということで、萩市の松下村塾と松陰神社に2年生全員が行くくことになった。観光バスに分乗して、T君と私が相席になった。私が通路側でT君が窓側の席に座った。社内レクでカラオケをしようということになり、マイクが回される。私はたいしてカラオケに興味がなかったので無関心を装っていたが、糸田が
「リンダ君とT君に何か歌ってほしいです」
と言ってきた。私は直感的に
「こいつ、俺がT君のことで先生に逐一何があったか連絡していることに対する報復にきやがったな」
と思った。私は
「カラオケなんて興味ない。歌いたけりゃお前らだけで歌ってろ」
そう言って拒否した。周りからは
「リンダ歌え~」
などと囃し立てるバカもいたが、私は断固拒否した。ここで奴らの報復に対して怯むような態度を見せれば、あとでいいカモにされると思ったので、私は回りがどれだけバカ騒ぎして囃し立ててようが、拒否の姿勢を貫いた。私が断固拒否するため、バスの中には重苦しい雰囲気が漂い始めた。重苦しい雰囲気を払しょくしたのが、とある女子の言った一言であった。
「嫌がってるのを無理やり歌わせて楽しいん?」
この一言で、それまで私やT君に対して、バカ騒ぎしている奴らも静まり返った。まぁ、私は歌うのが嫌で拒否したわけではないのであるが…。あいつらの理不尽な要求に屈するのが嫌だっただけである。そんな不穏な空気が漂う中、バスは萩市内に入って、松下村塾に到着。それぞれ気の合う仲間と一緒に自由に散策してもいいということで、2年から同じクラスになった柳本や佐山と一緒に中を見学して回った。明治維新の舞台となったところで、松下村塾の中で過去の偉人が何を学び、何を目指していたのかを肌で感じることが出来た。私はT君のことを見てほしいと先生から頼まれていたので、T君とも一緒に見て回った。最初、柳本や佐山たちはT君とどう接していいのかわからず、困惑していたのであるが、私が
「特に何かしなければいけないとか、深く考えなくてもいいんじゃね?普通に接してるだけでいいと思うけど?」
と言ってT君と一緒に過ごした。この考え方は、私が大阪で暮らしていたときに、重い脳性麻痺を患っていたくみちゃんと接していた時の経験から話したのであるが、私はT君と接するときも、障害があるからと言うだけで特別何か計らいをしたわけでもなく、ごく普通に接していた。ただ、この時はまだ、私自身に自閉症に関する知識があったわけではなく、楽しく過ごせればいい。それくらいにしか考えてなかったが、変に気負わず接したのがよかったのではないかと思う。
松下村塾を見た後は松陰神社へ。ここは吉田松陰を祭ってある神社で、歴史的価値の高い史跡である。松陰神社で参拝を済ませて、バスに乗って帰る時間がやってきた。流石に皆歩き疲れて、T君に危害を加えている糸田や末山、二人とつるんでいる市山も疲れていたのか、帰りのバスでは牙を抜かれた虎のようにおとなしかった。学校に帰り着いてその場で解散となって、私は自転車をこいで家に帰った。
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