第118話中学2年 T君へのいじめ継続

 昭和60年4月、私は中学2年へと進級した。一緒のクラスになりたくないと思っていた山田とはクラスが別々になった。そして激しい暴力を受けて恐怖に引きつった顔をしていたT君が同じクラスになった。このとき一緒のクラスになったのはほかに、学級委員をやっていた海老田のほか、西田・佐山・柳本・サッカー部の石田に梅田と言った男子に、いわゆる不良グループのメンバーで、三田のいじめともかかわりのある糸田や末山と言った野球部のメンバー、野球部員ではなかったが、糸田と末山とよくるんでいた市山と言う女子、それから演劇部の竹山、女子でちょっとつっぱった感じのある村田といった面々がそろっていた。

 糸田と末山は野球部でのいじめ問題が発覚して以降、野球部で問題を起こすようなことはしていなかったが、今度はT君を攻撃対象にするようになっていた。この二人はクラスの中でも札付きの不良で、私にも変な言いがかりをつけてきていた。私はこういった奴とまともに相手するのも疲れるので、関わらないようにしていた。この糸田や末山は半分恐喝じゃないかと言うようなこともやってくるほどの札付きの悪で、担任の国語の福井先生の前ではT君をかわいがるような真似をしていたが、先生が見ていないところではT君への暴力を繰り返したり、T君の下半身を露出するように脅迫するなど、えげつないいじめを繰り返していた。私はT君のことがほおってはおけなくて、なるべくT君の近くにいるようにしていたが、私もずっと学校にいる間、T君から離れずにいるというのも無理な話で、私がいない間にT君がいじめを受けることが数多くみられた。1学期が始まってすぐのころ、私が図書室から教室に向かって歩いていると、クラスの女子が

「キャー」

と言う悲鳴を上げて教室から飛び出してくるのが見えた。私がクラスの女子に

「何があったのか?」

と聞くと、T君が下半身を露出させながら追いかけてくるのだという。私が教室に戻ると確かにT君が下半身を露出させてクラスの女子を追いかけまわしているのが見えた。そしてT君のその視線の先に目を向けると糸田と末山がエアガンの銃口をT君に向けて

「やらないとエアガンで撃つぞ」

と脅しをかけていた。私はまずT君のズボンをはかせて、T君の視線から糸田と末山が見えなくなるように教室の外に連れ出して、落ち着かせて先生のところに連絡しに職員室に向かった。この事件の情報はクラスの女子からも入っていて、先生が糸田と末山を厳しく問い詰めていた。こっぴどく先生から叱られた後、二人は荒れに荒れていた。

「誰がチクったのか」

などと喚き散らしていた。そんなことが繰り返されるうちに、私が先生にチクっているらしいということが分かり、糸田と末山は私に対して、

「今度チクってみろ。お前も同じ目にあわせてやる」

などと言っていた。でも私はやめなかった。悪いのはいじめに加わる側であって、私は何一つ悪いことはしていない。私はじろっと二人を見ながら

「そんなことして何が面白いん?暇人なんじゃねぇ」

と憐みの意味も込めてこう言い放ってやった。

「なんだと~。テメェーぶっ飛ばされたいんか‼」

糸田と末山が凄んできたが、私は相手にせずそれ以上関わるのをその日はやめた。何を言っても怯まない私にいい加減根負けしたのか、糸田と末山は私の前ではT君に危害を加えることはやめるようになった。その分陰に隠れていじめを加えるようになっていったのである。

 T君が暴力を受けたり、尊厳を踏みにじられるのを見ていると、私自身、過去の忌まわしい記憶がよみがえってきて息苦しくなる。私はT君に私と同じ思いを味わってほしくなかった。

 それと私が不思議に思っていたのがT君の両親は自分の息子が学校でいじめられているのを知らないのだろうかということであった。恐らく蹴られたりして制服が汚れていたり、T君の様子からどんな目にあっているのか想像がつくと思うのであるが、それでも学校に通わさなければならない事情が何かあったのであろうか。その疑問を私は福井先生にぶつけてみた。福井先生の話では、T君の両親は障害があっても普通学級に通わせたいという思いを抱いているということであった。でも、その学校でT君はいじめに苦しんでいるのである。毎日繰り返される非常なまでの暴力と恫喝に怯えながら学校にやってきているのである。どんな思いを抱きながら学校に登校していたのかは、うまくコミュニケーションが取れないため、T君の思いや感じていること想像でしかわからなかったが、いい思い出は残っていないはずである。福井先生からは

「T君のこと宜しくね。T君のこと心配してくれてありがとう」

と言ってくれたが、私もT君のすべてをみれるわけではないので、やはりどうしてもT君と離れているときはT君が攻撃対象となっていた。糸田や末山は私がどんなに脅されても、先生への報告をやめないので、私がいる前では攻撃をしなくなったが、私がT君と離れているときに脅されてクラスの女子生徒に抱き着いたり、制服を脱がされて下半身を露出させられたりと言ったいじめを繰り返していた。私が見ていないところで危害を加えれば、私が糸田や末山がやったって言ったって、

「俺はやってない」

シラを切れば先生も直接見たわけではないので追及できなくなる。そのような意地汚い手を使ってまでT君をいじめる理由って何だったんだろう?これはいまだに私が理解できない疑問である。そして末山との腐れ縁は高校を卒業するまで続くのである。進学した高校の学部が違うので、高校で直接私に何かしてくるということはあまりなかったが、こんな奴が同じ高校にいるというだけで、不快感を感じていた私である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る