第115話13歳
2~3日して熱も下がったため学校に登校。休んでる間に雪も溶けていた。それからしばらくたった2月初め、父が法事で大阪に帰った。父にとっておよそ1年ぶりの帰郷である。そして、ゴンを預けている父の知り合いの家にゴンの様子を見に行ったそうである。久しぶりに会うゴンは、最初誰が来たのかと思ったのか、吠えていたそうであるが、父の声を聞いて思い出したようで、すぐに懐いてきたという。父と再会できてゴンも喜んでいたのかもしれない。しかし、それが私たち親きょうだいが見たゴンの最後の姿となった。父との再会からおよそ1年後、ゴンは病気のため天国へと旅立っていった。私もゴンに会いたかったのであるが、永遠に叶わぬ願いとなってしまった。
法事から帰ってきた父は、大阪名物の551の豚まんをたくさん買ってきてくれた。551の豚まんは私にとっては故郷の味であり、蒸し器で蒸して、からしをちょこっとつけて食べるのが最高においしい。懐かしい大阪の味をかみしめながら食べて、お腹がいっぱいになった。
そして、2月になると私の誕生日がやってくる。1年前の誕生日は、バースデーカードに
「死ね」
「出ていけ」
「山口に行ったら二度と帰ってくるな」
「お前、その顔やめますか?それとも人間やめますか?」
などと言った誹謗中傷的なことを書かれて、失意のどん底まで叩き落された私であるが、あの時の嫌な記憶が蘇ってきた。中学生になってからはバースデーカードを書くということはなくなっていたが、できれば2月17日はなくなってほしい。そんな思いを抱いていた。私にとって2月17日は自分の誕生日であるが、悪夢な記憶しか残っていなかった。自分の誕生日を素直に喜べるようになったのは、子供が生まれてからで、それまではできれば誕生日などは忘れ去ってもらいたい存在であった。そして中学生ともなるとお洒落や髪形などにも興味を示すころであるが、私は散々自分の顔そのものを化け物扱いされてきたためか、鏡の前に立って、自分の顔を見るのが苦痛で堪らなかった。
「なんで俺はこんな顔してんだろう」
「なんで俺はこんな醜い顔してんだろう」
「なんで俺はこんな顔に生まれてきてしまったんだろう」
そういう思いしか持てなかった。できれば首から上を切り落として、誰かの顔を付け替えてしまいたかった。それだけ自分の顔見るのが嫌だった。私の親は
「お前は背も高いし、いい顔に生まれてきたんじゃから自信を持ちなさい」
と言っていたが、私は自分の顔がいい顔とは思えなかった。だから、私が写真に写るのもすごく嫌で、中学時代の私が写った写真はほんの数枚しか残っていない。父はカメラが趣味なので、自分の子供である私たちをよく被写体に写したがっていたが、私は家族の集合写真でもない限り極力避けるようになっていた。自分の顔に自信が持てない自分…。自分の顔を見るのが嫌だったため、朝の洗顔も洗面所ではなく台所で済ましていた。母は
「洗面所で洗ってきなさい」
と言っていたが、どうしても私にはできなかった。自分の顔のすべてがコンプレックスで、比較的顔立ちがはっきりしている姉や妹がすごく羨ましかった。母は
「背が高いだけでヒットポイントなんじゃから、喜びなさい」
とも言っていたが、私の記憶にある限り、背が高いということで異性との間で得したことはない。
その嬉しくない誕生日を迎えて、両親や姉や妹からはおめでとうの言葉をかけてもらって、バースデーケーキも食べて祝ってくれたが、私はあの悪夢を思い出すだけで、息苦しくて、家族の前では喜ぶそぶりを見せていたが、内心は
「誰も祝ってくれなくていいんだよ。さっさと忘れてくれよ」
そう思っていた。誕生日が来たことで忌まわしいあのバースデーカードにかかれていたことを思い出してしまい、T君が激しい暴力を伴ういじめを受けているのを見て、それまで以上に私はしょっちゅう自分がいじめられてボロボロになる夢を見て飛び起きることが増えた。もうあいつらがいじめにここまでやってくることはないと頭では理解していても、私の記憶に刻まれた深い傷はなかなか消えてくれなかった。私がK中学校に転校するまでは、比較的クラスの中が落ち着いた雰囲気だったため、自分がいじめられているような悪夢を見ることは少なかったが、T君に対するいじめと、誕生日が引き金となったかのように、悪夢を見るようになり、転校するまでは落ち着いていたフラッシュバックも度々起こるようになっていた。そしてこの状態はこれ以降長く私を苦しめることになる。そのめでたいはずの私の13回目の誕生日の夜も悪夢にうなされて飛び起きた。あいつらに殺される夢を見たのである。増井が私の体をがんじがらめに縛り付けて、渡部や天田に中井、浜山と言ったいじめに加わったメンバーがナイフをそれぞれ持って、不気味な笑みを浮かべながら
「死ね」
そう言いながら私の体をめった刺しにする夢を見た。そしてとどめを刺すべく心臓を突き刺そうとするところで目が覚めた。時刻は午前1時過ぎだったように思う。それからまったく眠れずに夜は更けていった。父方の祖父が残した壁掛け時計の振り子の音だけが響く。そして夜が明けて、眠れなかった影響からか、体が鉛のように重たかった。それでも熱が出ているわけでもなく、学校を休まなければならないほど体調が悪いわけでもないので、あまり食欲がない中、朝食を済ませて学校に向かった私である。
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