第108話家を買う
そんな異性に対する興味も抱くようになった夏休みが終わって、2学期の始業式が行われた。そして両親から
「市の郊外に家を買った」
と言う話を聞かされた。どうやら今通っている中学校とは違う校区になるので、また転校しなければならなくなったらしい。ようやく今のクラスにも慣れてきて、少しではあるが親しく話もできる仲間ができたのに、また引っ越ししなければならないという。それも今度は県内でも有数のマンモス校だという。正直また一から関係を作り直さなければならないことに、かなり不安を感じていたが、もう引っ越しの時期も決まっていて、10月の終わりに引っ越しして、11月からは市内のK中学校に通うことになるということであった。せっかくみんな私のことをよくしてくれたのに、あと2か月ほどたったら離れなければならないのが残念であった。今回は小学校の時とは違って、皆には正直に話そうと思った。半年という短い期間ではあったが、皆は私のことを大切なクラスメイトとして迎え入れてくれて、よくしてもらったという思いもあったので、引っ越すことを隠していつの間にかいなくなるというのはしたくなかった。
新学期早々私はクラスの皆に、K中学校に11月から転校するということになったと伝えた。皆は一様に驚いていた。大阪から引っ越ししてきて、せっかくみんなと知り合えたのに、もう転校するのかと言った空気が流れていた。
「でも、同じ市内にある学校だから、いつかまた会えるよね」
そう言ってくれる女子もいた。私は皆に対して
「こいつらもいつかは俺を裏切る」
そう思っていたが、このクラスの皆は一部を除いて、誰も傷つけることもなく、一つのクラスとして、よくまとまっていたと思う。人を裏切ることも、悲しませることもなく、仲が良かった。その皆とも2か月ほどでお別れすることになる。大阪から山口に引っ越すときは、増井や渡部、久保や天田たちに対しては激しい恨みと憎しみを残しての引っ越しであったため、皆と会えなくなって寂しいというよりも、怒りを感じていたが、今回はやはり寂しいという思いが強かった。皆が私の憎しみと恨みで固く閉じた心を少しではあるが開けてくれたのだと思う。私はこのクラスでの残り2か月を思いっきり楽しんでみようと思った。
この期間で一番の楽しみと言えば体育祭。小学校の時よりもみんな体格がよくなっていて、走ったりすると迫力がある。その体育祭の練習が始まって、クラス対抗リレーや綱引き、創作ダンスなどの練習が行われた。リレーの練習では、何回もスタートとバトンの受け渡しの練習をするので、結構ハードであるが、皆と一緒に過ごせることが嬉しかった。体育祭の練習で疲れ果てて、帰って宿題などを済ませて夕食と入浴を終わらせると、あっという間に眠りこける日が多くなっていた。これはいじめ被害に苦しんだ以降の私としては珍しいことであった。これまでは眠りについても全く寝付けない日が多く、疲れが残った状態で学校に向かうことが多発し、授業中に眠気に襲われて居眠りをしてしまうことも多かった。学校の先生は私が不眠状態にあることを知らないので、私が居眠りをしていると
「起きんか~!」
と言って私をたたき起こすことも多かったが、やはりよく眠れると授業中の居眠りも無くなった。すぐ隣の席の女子からも
「リンダ君、最近居眠りせんようになったねぇ」
などといたずらっぽく言われることがあったが、眠れないというのは、授業中の態度として、内申書にも影響して来るので、いじめの影響と言うのは、思わぬところにまで影響を与えているんだなと実感した私である。
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