第107話夏休み後半
1週間ぶりに家に帰って、いつもの生活が戻ってきた。朝起きて、一応宿題を済ませて、時たま剣道部に冷やかしに顔を出して、昼からは特にどこか出かけることもなく、家でのんびり過ごしていると、時々クラスメイトがやってきて、
「遊びに行かんか~?」
と誘いに来るので、
「どこに行くんじゃ?」
と聞くと、
「釣り竿もってきたから、川に釣りに行かんか?」
と言うので、家から自転車で5分くらいのところを流れている川に釣りをしに行ったり、クラスメイトに誘われて、クラスの女子の家に行ったりしていた。小学校で酷いいじめにあって以来、特に女子に対しては強い不信感を抱いていた私であるが、私を招き入れてくれた女子は裏表のない性格で、引っ越しして山口のことについて、まだあまりよくわかっていない私に、あれこれといろいろと教えてくれて、明るい性格から私も
「ちょっと面白い奴じゃな」
と思っていた。そのクラスメイトの家に行くと、お母さんが紅茶とケーキをごちそうしてくれて、
「リンダ君、山口の生活にはだいぶ慣れた?またわからんことがあったら、何でも娘に聞いてね」
と言ってくれた。同じ親でも、渡部や増井・中井といったいじめ加害者の親とは全く違って、言葉の一つ一つにやさしさと慈愛があふれていて、誰も信じないと決めていた私であるが
「この女子なら信じてもいいのかな?」
と思った。この女子からは暴力的な言葉を聞いたことがなく、親の育て方や、子供が育つ環境によって、子供に与える影響がものすごく大きいことを実感した私である。その後も幾度かこの女子の家にお邪魔させてもらったことがあるが、いつも優しく私を迎え入れてくれた。なぜ彼女が私に優しく接してくれたのかはわからない。しかし、私の荒んだ心にほんの少しではあるが、光を与えてくれた彼女には感謝しかない。
また、このころからであろうか、女子に対して「異性」と言うのを意識し始めたのは。男子とならごく普通に話せるのであるが、女子の前だとどうしてもドギマギしてしまうのである。私には姉と妹がいるが、自分の姉や妹に対しては「異性」と言うのを意識することはなかったが、どうしてもクラスメイトの女子を前に話を知るとなると、緊張してしまってうまく話ができない自分がいた。これは自分が異性に対して興味を持ち始めたという意識期の表れであった。女子の方は何気なく私に話しかけてくるが、私は
「また裏切られるんじゃないか」
という思いもあったが、クラスの女子にとって、私が小学校のころに経験した凄惨ないじめは、私が自分から話さない限りわからないわけで、クラスの皆はただ単に私のことを
「大阪からの転校生」
と言うくらいにしか考えていなかったのかもしれない。また、このころになると、父が隠し持っていたエロ本を盗み見したりしていたころである。
一度小学生のころにいじめと言う形でクラスの女子に裏切られて、絶対に誰も信じないと思って山口に引っ越ししてから、誰に対しても斜に構えていた私であるが、そんな私でも異性である女子のことに興味を持ち始めるという感情は、生き残っていたみたいである。
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