第106話伯母に家へ
星田が大阪に帰った後は、またいつもの夏休みに戻っていった。いくら勉強に身が入らないといっても、宿題はやらなくてはいけないと思ったので、一応勉強はしていた。数学と英語も勉強していたのであるが、一向に数学と英語は覚えられなかったが。
そんなある日のこと、伯母からしばらく家に泊まりに来てほしいという要請があった。というのも、ゆみ姉ちゃんの上の子の俊君が長期入院をしなくてはならなくなり、いつも遊び相手になっていた下の子の裕君が、私に来てほしいと言っているということであった。そこで私はとりあえず、1週間分ほどの着替えや下着などをリュックに詰め込んで、伯母の家まで電車で向かった。伯母の家には裕君が来ており、私の到着を待ちわびていたようであった。私は何か特別なことをしたわけではなく、一緒に伯母の家の近くの川にシジミをとりに行ったり、一緒に風呂に入ったりしただけなのであるが、それが裕君にとっては楽しかったようである。私が着いたときは夕方で、病院にかかりつけになっているゆみ姉ちゃんの代わりにご主人が伯母の家にやってきて、裕君の様子を見に来ていた。お父さんの前では
「僕寂しくないよ」
と言っていた裕君であるが、やはりまだ幼稚園に入ったばかり。まだまだ甘えたい盛り。お父さんが病院に行ってしまうと、涙を流しながら
「ばあちゃん、やっぱり僕寂しい…」
と言っていた。私は少しでも気分が明るくなれるようにと思い、幼稚園で教えてもらうような歌や、テレビアニメの歌を歌った。そして
「一緒にお風呂に入ろうか?」
と誘うと
「うん、一緒に入る~」
と、それまで泣き顔だった顔がにっこりとほほ笑む。お風呂の中では裕君の話に耳を傾けたり、次の日は何をして遊ぼうかとか、他愛のない話をしたりして過ごしていた。そして、夜、布団に入って眠るときも
「僕お兄ちゃんと一緒のお布団で寝る~」
と言って、私の布団の中に潜り込んでくる。私に思いっきり甘えてくる裕君を見ていると
「本当ならゆみ姉ちゃんたちに甘えたいんだろうけど、それが今はできないってことを小さいなりに理解してるんだろうな」
と思っていた。このころ、兄の俊君は血液の病気と闘っており、どうしてもゆみ姉ちゃんとご主人は病院から抜け出せない状態が続いていた。伯母の家から俊君が入院している病院まで、バスに乗れば5分程で着くところにあるので、面会ができるのかどうか伯母に聞いてみて、短い時間であれば面会も大丈夫だということで、裕君を連れて一緒に行ってみた。私たちが行ったときは入院してしばらくたっていたということもあって、治療の成果が出始めていたころで、私が思っていたよりも元気そうであった。私が
「お兄ちゃんとお話しする?」
と聞くと
「うん」
と、小さく頷くので、私は病室から席を外して、しばらくの間、兄弟が二人で過ごせる時間を作って、裕君なりにいろいろと話をしたみたいである。そして俊君が私を呼んでいるということで、病室に入ると、
「退院したら、僕も兄ちゃんと一緒に遊びたい」
と言うので、私は
「おう、一緒に遊ぼうね。それまでに体をきちんと治して、元気にならんといけんよ。ご飯も好き嫌いせず、たくさん食べんと元気が出んよ」
と言うと
「わかってるよう。早く退院したいなぁ」
そんなことを言っていた。長時間の面会は体力的に負担がかかるということで、あまり長居はできなかったが、私も入院中の俊君の様子が分かって安心したし、裕君も兄の様子を見ることが出来て安心したようである。
それから1か月ほどして俊君は元気を取り戻して退院した。私は1週間ほど裕君と一緒に寝泊まりしたが、私が帰ってからは寂しいという言葉は口にしなくなったと、伯母が言っていた。
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