第97話中学校生活スタート
昭和59年4月8日、私は市立O中学校の門をくぐった。市内でも有数の古い歴史のある中学校だそうで、入学式で、新入生を歓迎するスピーチでも、やたら
「伝統を誇る」
とか、
「伝統ある学校」
だとか、伝統というキーワードが連呼されていた。まぁ、私が入学した時点で100年の歴史があったそうであるが…。
私は真新しい制服に身を包んで学校に、母とともに登校。私が最初に通ったO中学校は、地元のO小学校からの持ちあがりで、皆ほかの生徒は知った顔ばかりだったようであるが、私にとっては知らない奴ばかり。
「どんな奴がいるんだろう」
そう思いながら入学式の間、周りを見渡してみた。中には明らかに校則違反じゃないかと思われるような恰好をした奴や、パッと見ただけで
「こいつ、つっぱってやがるな」
とわかるようなガラの悪そうな奴もいた。結局はどこに行ったって、この時代は校内暴力や学級崩壊などが起こっていたのである。俗にいう不良と呼ばれる奴らが幅を利かせていた。私はそんな奴らから
「目をつけられないように気をつけなければ」
と思っていた。
入学式が終わって、今度はクラス分け。私は1年2組になった。各自自己紹介をすることになって、私の番が回ってきた。私は山口に母の実家があるということで、山口弁にはかなり慣れていたつもりであったが、やはりどこかで大阪弁が混ざっていたようで、クラスの一人から
「お前、大阪出身じゃろう?」
と言われたので、
「そうじゃけど、なんか変じゃった?」
と聞き返してみると、大阪弁が少し混ざっていたようである。このころは大阪出身の芸人が少しずつ全国的にも名前が知られるようになっていった時代で、山口でも多少大阪弁を知っている奴がいたようである。
「なぁなぁ、今度大阪について詳しく教えてよ」
というので
「いいよ」
と言って、入学式とクラスの顔合わせが済んだ後は家に帰った。
「まぁ、不良に絡まれるようなことをしなければ、大丈夫なんじゃないか」
そんな思いを抱いての帰宅となった。
ただ、この時私が感じていたのは、いじめとの戦いに明け暮れて、それからから解放されて、何もする気が起きなかったということである。勉強も以前のようにしなくなったし、部活も一応剣道部に入部したが、事実上幽霊部員で、ほとんど参加することなく学校が終わったら、部活をさぼって家に帰っていた。何をするのも面倒であった。その一方で相変わらず自分がいじめられていた時の辛い記憶はフラッシュバックのようによみがえるし、激しい怒りや恨み、憎しみが頭の中で渦巻いていて、自分が何をしたいのか正直わからなかった。そしてやり場のない怒りを感じていた。そんな自分をすべて捨て去ってしまいたかった。自分の脳裏に焼き付いている憎しみ怒り、恨みと言った感情を消し去ることが出来る者であれば、すべての記憶を消し去ってしまいたかった。
もし、私が大阪で生活していたならば、渡部たちを殺していたかもしれない。今でも私はそう思っている。それだけ私は渡部や増井たちに強い憎しみを抱いていた。なので、あの段階で山口に引越しして正解だったのかもしれないなと思う。もし、私が大阪に住み続けて、いじめ加害者に対して、憎しみのあまり殺害するようなことをしていたら、いじめ被害者という事実の上に、さらに犯罪者としての重大な責任を負うことになっていたかもしれない。自分だけでなく、私の家族や親せき、私と仲良くしてくれた星田や永井達にまで大きな影響を与えてしまっていたかもしれない。今はある程度自分の理性によって、そういった憎しみはコントロールできるようになったが、もし大阪に住み続けていいれば、私の怒りの感情が暴発していたかもしれない。
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