第93話夢破れて
そして、私はいじめによって、地元を走る私鉄の乗務員になるという夢も無残に破り捨てられ、新たな目標や夢を見つけられずにその後を過ごすことになる。自分はこうなりたいとか、どんな仕事に就職したいとか、そのような夢さえ思い描くことさええも許されなかったのである。
小学校を卒業して、こうしていじめとの戦いに明け暮れた1年は終わった。
「これでなにもかも、すべてが終わったんだ」
そう思いたかった。しかし、いじめがなくなったからと言って、私が体験した恐怖や激痛は簡単には私の心の中からは消えてくれなかった。いつまでも私の心を真綿で締め付けるような、長い長い後遺症との戦いが始まったに過ぎなかった。卒業式が終わったその夜、私は夢の中で6年4組の教室の中にいた。そして激しい罵声や罵倒を受けながら暴行されている夢を見たのである。もういじめとの戦いは終わったはずなのに…。この当時の私にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)という心の障害があるということなど知る由もなかった。なので心理カウンセラーの診断を受けることなどもなく、長い間いじめの後遺症に悩まされることになる。
卒業式が終わった翌日、星田が家にやってきた。
「もう少ししたら、ここにきて遊ばれんようになるんやなぁ」
彼がそうつぶやいた。そう、あと10日もすれば、今住んでいる家は解体されて更地にされて、思い出の染みついたこの家は跡形もなくなる。そして、永遠に住むこともできなくなる。そんなことを考えると、やはりどうしても辛くなる。そのことを忘れようとするかのように、私たちは外で思いっきり体を動かして遊んだ。このまま時間が止まってくれればいいのに…。そう思っていた。残り少なくなった大阪での生活。故郷の風景を自分の目にしっかりと焼き付けておこうと、街の様子や駅前の風景などを食い入るように眺めていた。やがて星田が帰って、翌日私は引っ越しの挨拶をするために小学校の職員室に向かっていた。お菓子の詰め合わせを持って歩いていると、天田と中井と鉢合わせしてしまった。中井が
「なんでテメェーがここにおるねん。さっさと山口に引っ越せや」
私が無視して通り過ぎようとすると天田が
「お前がおったらうちら本当に迷惑やねん。さっさと消え失せろや」
などと言っていた。ここにまで来てまだ私は徹底的に叩きのめそうという言動に、こいつらの残忍な人間性を垣間見たような気がする。私は去り際に
「俺に死ねって言うんやったら、お前らが見本を見せれば?」
そう言い残して学校に向かった。学校に着いて、楢崎先生や校長先生に挨拶をして、担任を受け持ってくれた楢崎先生にお菓子の詰め合わせを渡して帰った。学校に来た道を歩いて帰ると、天田と中井に遭遇する可能性が高いので、少し遠回りになるが、別の道を歩いて帰った。
家に帰ったら、自分の荷物を段ボールに詰めて、必要最低限の物しかなくなったので、タンスの中も机の中もスカスカな状態になった。そしてこのタイミングで、私が生まれた時に購入したテレビが壊れた。スイッチを入れても電源が入らなくなったのである。そのため、引っ越しするまでの1週間はテレビのない生活となった。両親は「よけいな荷物が一つ減ってよかったわ」
などと言っていた。私はあまりテレビを観ない方なので、どちらかというとラジオの方をよく聞いていたので、あまり関係なかったが、妹はやりテレビが見たいと言っていた。
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