第80話山口への引っ越し決定

 このころになると、私の表情からも辛いという感情がにじみ出ていたのではないかと思う。辛い思いを抱えながらも学校に行かなければ…。この時の私に、学校に行くのを拒否するというのは、病気でもない限り、不良がすることだというイメージが色濃く醸し出されていてできなかった。病気でもない子供が学校に行かないというのはタブー視されていた時代である。私は不良になりたくないという思いと、親に心配かけたくないという思いだけで学校に通っていたようなものである。

 ただ、私が自殺未遂を起こした時に、ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、それから数日して両親が私たち子供3人を集めてこう切り出した。

「来年の3月末で山口に引っ越すことになった。お父さんの仕事の関係で転勤せなあかんようになって、大阪には住まれんようになった」

ということであった。すでに私へのいじめが発覚してから、引っ越しすることを決めていたようで、すでに山口の引っ越し先の家も決めたという。転勤先の住所を聞いてみると、父の仕事とは全く関係のないところであった。父は造船技術者として仕事をしていたのであるが、山口県内で造船業が盛んな地域と言えば、下関市か下松市であるが、そことは全く違うところなのである。これは私の想像であるが、姉が通っている学校の教育環境も、授業が成り立たないなどの学級崩壊状態であり、校内暴力などgは頻発する荒れ田中学校であったし、これに私が直面しているいじめで、これ以上私がここに住んでいたら、いつ警察沙汰になるような事件が起こってもおかしくなという思いがあったのではないかと思う。まして、K小学校を卒業したら、校内暴力や学級崩壊を抱えるK中学校に進学することになり、ますます私たちを取り巻く教育環境は悪化すると判断したのだろう。

 この話を聞いて、私は誰にも言わずにおこうと思った。人知れずいつの間にか引っ越しして姿を消したいという思いがあったからである。この時の私の心の中にあったのは、私のせいで家族みんなの人生を狂わせてしまったという責任である。私がいじめられてなかったら…。もしいじめに遭遇せずに、今も大阪で暮らしていたなら、今とは全く違った人生もあったのかもしれない。私が直面したいじめのせいで、私の人生はもとより、家族みんなの人生まで大きく変えてしまった子おtに対して、責任を感じていた。そして私にとって一番ショックだったのは、可愛がっていたゴンを連れていけないということであった。あんなに懐いてくれてるのに…。あんなに可愛がってきたのに…。ゴンが病気だからなどの理由で連れていけないのであれば仕方がないと思えるのかもしれないが、ゴンは健康そのもので、私がそばに行くといつもしっぽをふりながら近寄ってくる。そのゴンと、あと4か月ほどでお別れしなければならないというのが私にとっては本当にショックであった。ゴンを預かってもらう家も、もう決めているという。私としては、ゴンが産まれた家に帰ることができれば、それがせめてもの救いだと思ったのであるが、そうもいかなかったらしい。

 そんなことが決まったことなど、ゴンは知る由もなく、私が散歩に行くのにリードを持つと、嬉しそうにしっぽをふって近づいてくる。そんなゴンを見ていると涙があふれてきた。ゴンの一生まで狂わせてしまった。そういう思いでいっぱいであった。

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