第78話インフルエンザ
運動会が終わると、文化祭の練習が始まったのであるが、文化祭での演目は
「怪人20面相」
とある宝石店に犯行予告が届き、厳重な警備が敷かれる中、怪人20面相がどうやって予告通りに宝石を盗み出し、名探偵がどのように犯行を見破るのかという、サスペンスの要素を取り入れた劇をすることになった。私は宝石店の店主という役柄で、あまりセリフもなく、楽な役回りであったが、腹を蹴られた影響で大きな声を出すと強い痛みが走るので、なかなか大きな声を出すということができなかった。そんな中で文化祭本番を迎えて、私たちのステージ発表が終わって、審査の結果、6年4組の演目が最優秀賞に選ばれた。学級委員長が表彰状を受け取って、クラスの出入り口の上に飾られることになった。
その文化祭が終わって、11月に入るとインフルエンザの予防接種が行われた。予防接種を受けた後は安静にしておくようにとの先生からの注意があった。予防接種を受けた後、湯川が
「あんたさぁ、どうせ死ななあかんのやから、予防接種なんか受けんと、インフルエンザにかかって死ねば?」
と言ってきた。もう何も言い返してもいいように殴られ、蹴られるだけなので、私は何も答えず無視した。私が何の反応も示さないことに腹を立てた湯川が、学校が終わって帰るときに、増井たちを連れて私の前に立ちはだかったので、私はすり抜けて帰ろうとした。
「おい、リンダさぁ、お前なんか言うことあるんちゃうんか」
それでも私は何も答えずにそのまま帰ろうとした。そしたら、清川がいきなりジャンピングキックを私の後頭部に入れてきた。蹴られた勢いで私は前方に倒れて顎を強打。顎の骨が折れたんじゃないかと思うくらいの強い痛みが全身を襲う。そして倒れたと同時に増井が馬乗りになり、再び増井や渡部、湯川によって殴る蹴るの暴行を受け、その影響からか、帰ってから高熱を出した。とりあえず家にあった頓服薬を服用して、翌日かかりつけの病院に行って診察してもらうと、インフルエンザにかかっているという診断が出た。この時、私の腹部に痣が残っているのを不審に思った病院の先生から
「この痣はどないしたん?」
と聞かれた。私は咄嗟に
「サッカーの練習をしていて、ボールを蹴ろうとして相手の足が思いっきり当たった」
という風に答えた。この時、秋季の球技大会に向けてサッカーの練習をしていたのは事実であったからである。先生は
「そうなんかぁ。それは災難やったなぁ」
と言っていたが、明かに暴力を受けたと思った先生が私の家族に連絡を入れたみたいで、その日の夜、両親が
「あんた、なんか辛いことがあるんとちゃうか?」
というので、私は始めのうちは
「別に…」
と言って何とかごまかそうとしていたが、父の
「ちょっと今は寒いと思うけど、パジャマを脱いで見せてみ」
と言われて、
「とうとうばれてしまったか…」
と思い、私は言われるままに来ていたパジャマを脱いで、私の腹部を見せた。そこには痣がくっきりと残されていた。それを見て私の家族は一様に
「酷い…」
と言ったきり、言葉を失っていた。
「こんなことをされて黙ってられるか」
と父は怒りを込めて、暴行を働いた奴の家に怒鳴り込んで言って謝罪させると言い出した。私は
「頼むからそれだけはやめて。そんなことされたら、また学校で何されるかわからへん」
そう言って懇願した。私のいじめが両親にわかって、父が渡部たちの家に怒鳴り込んでいったら、さらなる暴力が待ち構えているだけだということが分かっていたからである。インフルエンザで高熱が出て、半分意識が朦朧として、食事もろくにのどを通らない状況が続き、2日くらいはほとんど何も食べられず、ぐったりとしていた。熱が下がったのは熱が出だしてから5日くらいたってからであろうか。少し固めの食事が食べられるようになって、あっさりしたものであれば、喉を通るくらいにまで回復してきた。
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