第77話戦意喪失

 運動会翌日は学校が休みなので、朝ゴンの散歩に出かけた。8時過ぎだということで、家の近くの道路も渋滞気味であるし、電車も満員の乗客を乗せて走っている。皆が学校や仕事に行ってる時間、私は休みだというのがなんだか少し嬉しかった。何もする予定がないのでいつもより長めにゴンの歩をした。隣駅まで歩いて行って、そこから小学校の前を通って、大回りして帰ったのであるが、いつもより長めの散歩でゴンも疲れたのか、家に帰ったら犬小屋のそばで気持ちよさそうに寝てた。

 それ以外は夕方のゴンの散歩まで家を出なかったのではないこと思う。父と母は仕事に行っていないし、姉は中学校・妹は保育園に行って私以外誰もいないので、普段見ることのできない平日昼間のテレビを観たり、ラジオを聞いたりしながら過ごしていた。

 翌日、学校に行って、運動会で印象に残ったことを絵に描いてみようということになって、私は徒競走で3連覇を達成したシーンを描いていたら、清川がやってきた。そして

「組体操のことを描くから、お前の顔をよく見せてみろ。お前の顔描くのはめっちゃ嫌なんやけど、描いてやるから有難いと思え」

という。私は何も清川に私の顔を描いてほしいと頼んだわけでもないし、

「嫌なんやったら描かんかったらええのに」

と思っていたので、私は無視し続けた。そしたら、

「なんやこいつ。一丁前に反抗しよるで」

と言って、自分の席に戻っていった。これがさらなる悪夢の引き金になるとは思ってもみなかった。

 終わりの会が終わって、帰る用意をして、教室を出たところで清川と増井が待ち構えていた。

「お前、さっきの偉そうな態度はなんや。俺がせっかく描いてやるっていう”善意”を無視しやがって」

「別に俺は俺の顔を描いてくれって言った覚えもないし、頼んだ覚えもない。そっちが勝手に言い出したことちゃうんか。俺にそんなん言われても知るか」

そう言って帰ろうとすると、いきなりランドセルを後ろに引っ張られ、私は引き倒された。ランドセルを背負っていたので、後頭部を打ち付けるということはなかったが、

「テメェーなんやその偉そうな口の利き方は‼。めっちゃ腹立った。増井よ、がっしり押さえとけよ」

そう言うと思いっきり私の横っ腹に蹴りを入れてきた。一発・二発…。蹴りが次々横っ腹にヒットしていく。この騒ぎを聞きつけた渡部や久保や中井も次々にやってきて、私の腹部を集中的に攻撃してくる。逃げ出そうにも増井が上から押さえかかっているので、、体を動かすこともできず、逃げ出すことがほぼ不可能な中、あまりの激痛に次第に意識が遠のいていこうとしていた。そして私にとどめを刺したのが、渡部や清川が言った

「さっさと死ね」

という一言。これで完全に私の心は折れてしまった。

「あぁ、やっぱり俺は死ななければいけない人間なんだ…。」

完全に生きるという希望を失ってしまった。複数回にわたって思いっきり蹴られた影響で、激しい痛みを感じながらよろよろと立ち上がって、家に帰って、痛みに耐えながらその日は終わった。その日から

「家に帰ったら死のう」

常にそんなことを考えていた。

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