第63話憎しみと恨みと怒りと
しかしこれは束の間の安息でしかなかった。翌日学校に行くと、昨日先生にビンタを張られた渡部や湯川たちが案の定、文句を言ってきた。
「お前さぁ、昨日誰のせいでうちらがビンタされたって思ってんねん。めっちゃ痛かったんや。どう責任取るつもりなんや」
と言うので、私は
「そういうても俺は盗ってないもん。俺は何も悪いことしてへんもん」
そう言い返した。しかしそんなことで納得するような奴らであるはずもなく、渡部が増井を呼んだ。
「増井さぁ、こいつどうする?あんたのタックルで思いっきり吹っ飛ばすか、それとも動かれへんようにしてうちらが思いっきり腹を殴ってやろうか」
「せやなぁ。昨日センコウにビンタされたんは皆なんやから、殴るっていうのはどうやろ。ただし服で隠れるところだけにしとけよ」
と言うので、私はその場から逃げようとしたが、一瞬早く増井が私の服をわしづかみにした。それで身動きが取れないように羽交い絞めにされ、腹に思いっきり渡部がパンチを繰り出してきた。
「お前がおったらめっちゃむかつくねん。さっさと死ねや」
そういいながら殴ってきた。そして湯川が蹴りを入れてきて私はその場に崩れ落ちた。私が蹲っているのを見ながら
「あぁすっきりした。ほんまこいつだけはむかつくわ~」
「てめぇ、センコウにばれんようにさっさと起きれや」
などと言いながら自分の席に戻っていった。この時私の中で何かが勢いを増して増殖していった。それは絶対に抱いてはいけないもの。そう、増井や渡部たちに対する憎しみ・恨みの念や怒りが私の中で、どす黒い濁流のように押し寄せてきたのである。
「俺をここまで苦しめるあいつらを殺してやりたい」
「自分が6年生になってから今までやられたことと同じことしてやりたい」
「思いっきりあいつらを殴り倒してやりたい」
そんな憎悪の念が次第に心の中で大きくなっていった。それは今まで私も一度も抱いたことのない感情であった。人を憎むこと・恨むことを覚えた瞬間であった。6年生になるまで、平穏に過ごしていた私の心に土足で踏み込んできて、痛めつけることだけに快楽を求める渡部たちがどうしても許せなかった。5年生の時から増井から嫌がらせは受けていたが、それでも増井を個人的に憎むということはなかった。それが今では、わずか数週間のうちに、激しい憎悪の念を抱いている自分がいて、次第にその感情を抑えきれなくなるのではないかと言う、あらたな恐怖を感じていた。
「これ以上何かされたら自分が壊れてしまうんじゃないか」
そういう思いを抱いていた。
「俺を嫌うのであれば嫌ってもいい。俺に何もしなければ何も起こらないのであるから、もうほっといてほしい」
そう思っていた、しかしそんな私の思いなどまったく関係なく、学校に行けば毎日のように嵐の中で翻弄される私がいる。このころになると、毎朝起きるのがつらくて、起きた後も調子が悪く、しょっちゅう精神的なストレスから下痢をするようになっていた。毎朝、学校に着くとトイレに駆け込むことが多くなっていた。私の表情からは笑顔が消えて、まるで死人のように生きていた。まさに生ける屍であった。しかし、親には自分がいじめ被害にあっているということは言えなかった。姉の通う中学校の校内暴力問題が我が家にも吹き荒れていて、姉が精神的に相当参っている状態の中で、私までいじめの被害で苦しんでいるということはとても言えなかった。私なりにこれ以上親に心配かけたくないという思いもあったし、自分の弱いところを見られたくなかったという思いもあった。
「あいつらに負けたくない」
ただその思いだけで学校に通っていたような感じであった。
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