第61話ずる賢さと意地汚さ

 6年生になってから初めての身体測定が行われた4月の終わり。身体測定は保健室に行って、体重や身長などを定期的に測定するものであるが、そういえばあることに気が付いた。そう、増井や清川らによる身体的暴力行為がここ数日起きなかったのである。その理由は、身体測定では下着姿になるので、胸や腹部、下半身などにあざが残っていたら、一発でいじめがばれるので、身体測定のある数日前から、増井や清川たちは、直接的な証拠となる身体的暴力の痕跡を残さないように、口だけによる攻撃に絞っていたのである。

 クラスの皆にはチクることを禁止し、もしチクった場合は私にさらに激しい暴力を加えるという脅しかかけて、さらには私には対外的にはいじめられていないように肌が露出しにくいところを狙って暴力を繰り返し、身体測定などがある時雄は、その痕跡を残さないように身体的暴力をやめるという、ずる賢さと意地汚さを併せ持っていた。そのため、楢崎先生はいじめは沈静化したものと思っていたようであるし、保健の永田先生も私が激しい暴力を伴ういじめを受けていることなど、想像もできなかったと思う。先生の前では一見落ち着いて見えていたはずである。その裏では渡部や浜山・天田・増井・清川・湯川・久保・中井たちによるクラスメイトに対する恐怖政治が行われていたのである。そんなクラスの状態に嫌気がさして、私に

「あんたさぁ、他のクラスに変わった方がええんとちゃう?」

「あんたがいじめられてるの見るの、嫌やねん」

などと、私に6年4組から出ていくように言い出すクラスメイトまでいた。

「俺はこのクラスにいてはいけない人間なんやろうか」

そんな思いが頭の中をよぎる。いっそのこと、先生にいじめが継続しているとカミングアウトして、他のクラスに変わった方が楽かもしれない…。そういう思いもあったが、私がいじめられているということを伝えると、先生は当然いじめ加害者や、見て見ぬふりをしてきたクラスメイトをきつくしかるだろう。時と場合によっては先生が手をあげるかもしれない。そうなったら、ますます私に対するいじめ行為がひどくいなるんじゃないか。それが私が先生や親に、いじめ被害にあっていることを口に出して伝えたり、生活ノートを通して先生に伝えることを躊躇させる大きな要因になっていた。

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