第56話序章
翌日、私が学校に行くと渡部と久保が私の前にやってきて、
「お前さ、なんで昨日センコウにチクったんや。おかげで私ら思いっきりびんたされたやろうが。めっちゃ痛かったんやで」
と言ってきた。
「俺は何も悪いことしてへんもん」
と言うと、背後に回っていた増井が私を羽交い絞めにして、
「お前がチクったんが悪いんやろうが」
と言って、身動きが取れないようにして、待ち構えていた清川が、
「お前の顔見とったらめっちゃ蹴り入れたくなるねん」
と、私の腹部に思いっきり蹴りを入れてきた。清川の蹴りは、私の腹部のちょうど真ん中に命中し、私は痛みに顔をゆがめながら、胃液が逆流して来るのを感じて少し口からはみ出してしまった。それが増井の手にかかり、羽交い絞めにしていた手を放して、
「ウワッ。きったなぁ」
と、水道に手を洗いに行った。私はあまりの痛さに腹部を抑えながら、懸命に痛みに耐えていた。額に脂汗がにじみ出てきた。そして、清川が言い放った一言が、私に恐怖心を植え付けた。
「今度センコウにチクったら、こんなんで済むと思うなよ」
そういいながら、痛みにうずくまっている私の、今度は背中に蹴りを入れてきた。そして、クラスのほかの皆にも
「今度チクったら、またこいつに蹴り入れるからな。よう覚えとけよ」
そう言って、私に
「先生に告げ口したら何されるかわからない」
と言う恐怖心を植え付け、クラスの皆には私に危害をいつでも加えるという脅迫行為を行い、恐怖政治で6年4組を支配する空気が出来上がった。こうしてクラスの中は私に危害を加える者・加害行為をはやし立てる者・いじめなど我関せず、あるいは自分に危害が及ばないように見て見ぬふりをする者・何とか私の見方になって、加害行為をやめさせようとする者に分裂するようになった。星田や大森たちはやめさせようとしても危害が加えられなかったのは、おそらくクラスの中でもある程度発言力があったからだと思うが、私をかばったからと言って危害が加えられるようなことはなかったが…。こうして私に対する加害行為が始まったわけであるが、清川が私に対して入れた2発の蹴りは、そのあとに続く悲惨ないじめの序章にしか過ぎなかったのである。
この日に起きたことは今田と福田が見ている前で起きて、清川や増井に対して辞めろと言っていたが、2人には届いていなかった。そして一連の暴力行為が終わった後、腹部を抑えている私に
「リンダ大丈夫か?先生に言いに行った方がええんちゃうか?」
と言ってきてくれた。ただ、この時に植え付けられた
「こいつらには向かったら、何されるかわからない」
と言う恐怖心から、
「だ、大丈夫や。先生に言いに行ったら、またあいつら何して来るかわからへん」
と言って、先生が教室に入ってきて、授業が始まる前委には、何事もなかったかのようにふるまっていた。
この日は、腹部と背中に蹴りを入れられた影響からか、おなかの調子がよくなくて、一日おとなしく過ごしていた。ちょうどクラブ活動がある日だったので、鉄道クラブの教室に向かって、新たに加わった4年生に対して、私が部長をしていること、クラブ活動の内容などを話して、担当の先生と挨拶を交わした。担当の先生は5年生からの持ちあがりで、私のこともよく知っていたので、顔色がいつもに比べておかしい私の様子に何か異変を感じ取ったみたいで、クラブ活動が終わって、教室の戻ろうとしていた私に、
「リンダ君、顔色悪いけど。どこか体の具合悪いんとちゃう?」
と気遣ってくれた。私は
大丈夫です。ちょっとおなかの具合が悪いですけど、大丈夫です」
と言って教室に戻った。教室に戻ってみると、私に対する暴力行為などなかったかのように、いつもの雰囲気になっていた。そして終わりの会が終わって、家に帰ってその日の夜、蹴られた部分を見てみると、赤くはれていた。羽交い絞めにされていたために、清川の攻撃を防ぐことができず、ノーガードで一撃を食らったため、私が思った以上にダメージが大きかったようである。今日あったことを両親に話そうと思ったのであるが、両親に話すと当然先生に話が行くわけで、チクったことがばれたら、また暴力を受けるのではないかと言う恐怖から、言い出せずにいた。
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