第55話小学6年生 ターゲット

 いよいよここからいじめに関する記述が大幅に増えてくる。生々しい暴言や暴力描写が多数出てくるので、読むのがつらいと思われた方は、心落ち着いてから読んでいただきたいと思う。

  

 5年生から6年生への進級に、クラス替えも、担任の先生の変更もなく、ただ5年生から6年生に進級しただけという印象が強かった。5年生の時と変わりないクラスメイト・担任の楢崎先生と卒業までの一年間、共に過ごすことになるわけである。天敵である増井がまた一緒のクラスと言うのは正直嫌であったが、他のクラスメイトとは、5年生の時は、比較的良好な関係を保っていたので、そのまま増井を除けば、いい関係で1年過ごせるのではないかと思っていた。

 そんな1年がスタートしたが、私はやはり蓄膿症に少なからず悩まされていて、鼻が詰まって、鼻水が出やすいうえに、口呼吸しないと息ができないので、のどがやられて乾燥するため、激しくせき込むこともあった。

 そして進級してから数日たった4月のある日、ティッシュで鼻をかんでいたら、増井が強烈なタックルをしてきた。その勢いで私は前方に倒れかかり、そこにいたのが渡部であった。私が鼻をかんでティッシュをごみ箱に捨てようとしていたところをタックルされたので、私のかんだティッシュについていた鼻水が渡部の服に少しついてしまった。それに気づいた渡部が

「リンダ、何してくれてんねん。汚いやんか」

と言うので、私が

「増井にタックルされて転びそうになって、たまたまそこにおった渡部にぶつかってしもうた。ごめん」

と渡部に対して事情を説明したうえで謝った。それがのちにいじめに発展していくとは思いもしなかった。

 ただ、この時なぜか渡部は、原因を作った増井を糾弾することはなかった。タックルを繰り返す増井よりも、服を汚した私の方が悪いと思っていたようである。

 その後しばらくたって、少しクラスの雰囲気が以前と何か違うと感じるようになっていた。私が渡部や天田・浜山・中井・久保・湯川と言った女子に話しかけても無視されるようになったのである。

「なんか感じ悪いなぁ」

と思いながらも、まだこの当時は私がいじめのターゲットにされているとは思わなかった。なんかよそよそしい感じがしながらも、まだ暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりと言ったことはなかった。それが四月半ばに、私と渡部が少し肩がぶつかったことがあった。この時に渡部が言ったのが

「ギャー。リンダとぶつかってしもうた。汚い~」

と言う言葉であった。周りにいた浜山や天田たちが口々に

「カオちゃんかわいそう。あいつに触ったら腐るで」

と言うので、そんなこと言われる覚えはないと思った私は

「俺とぶつかったら腐るって、いったいなんやねん。俺が何したっていうねん」

と怒りを込めて言うと、

「お前は汚いから触ったら腐る言うてんじゃボケ‼」

などと言い返され、

「俺のどこが汚いねん。そんなん言われる筋合いなんかあるか‼」

「はぁ?マジでこいつむかつくわ。汚いから汚い言うてどこが悪いねん」

どんどん騒ぎが大きくなっていって、私に

「汚い」

と暴言を吐く渡部や天田・浜山・久保・湯川に、清川やタックルを繰り返しやってくる増井・その騒ぎをあおる連中・見て見ぬふりをする奴・そして星田や今田・福田・柳井や永井・大森と言った、私を助けてくれるグループに分裂して、騒ぎを見かねた柳井が「リンダ、先生のところに行ってくるわ。ちゃんと今あったことを話したほうがええんとちゃうか?」

と言うので、私はこれ以上騒ぎを大きくしたくないという思いもあったので

「もうええわ。こんなんほっといて帰ろうや」

と言って家に帰った。そう、この出来事は帰りの会が終わって、先生が教室を出て、皆が帰ろうとしたときに起こった事件であった。

「きっと渡部の機嫌が悪くて、たまたま八つ当たりされただけ」

そう思って気を取り直して家に帰った私である。

「今日あったことは、悪い夢だったんだ」

そう思って、ゴンの散歩に出かけて、

途中、福田と会って、帰り際に起こったことを話した。

「リンダ、お前、あいつらになんかしたんか?」

と言われたので、

「俺はあんなん言われるようなことした覚えはないけどなぁ…。この前、俺の鼻の調子が悪くて、鼻水かんでたら増井がタックルしてきて、それで転びそうになったときに、ティッシュについてた鼻水が渡部の服について、その時はちゃんと謝ったんやけどな」

と言うと、

「そんなことがあったんか…。なんで増井はリンダを目の敵にするんやろうな?」「俺もさっぱりわからへんねん。先生の話では、増井の家がうまくいってへんらしくて、それが原因かもしれへんと言ってたけどな…。ほんとうになんで俺だけにするんかわけわからんわ」

などと話して

「また明日、学校で会おうな」

そう言って福田と別れて散歩の続きをして、家に帰った。そして翌日、学校に行くと緊急の学級会が開かれた。学級会の議題は昨日帰り際にあった出来事であった。誰かが生活ノートに書いて先生に知らせたらしい。名指しで渡部や天田・増井らの名前が挙げられて、なんで私に対して

「汚い」

「触ったら腐る」

などと言う暴言を吐いたのか、その真相を明らかにしなければいけないということであった。

 まず私に対して、昨日起こったことを詳しく話すように言われて、「昨日終わりの会が終わって、帰り支度をして帰ろうとしたときに、渡部と肩がぶつかって、その時に「汚い」「触ったら腐る」と言われた」

などと、忠実に昨日起こったことを話した。名指しされた渡部たちは

「リンダが鼻水出していて、いっつも鼻をかんでいて、気持ち悪かったから「腐る」とか言った」

などと話していた。それを聞いて先生はおもむろに

「あのな、世の中にはいろんな人がおるんや。体が不自由な人とか、病気を抱えた人とか、そういう人もいっぱいおるねん。リンダの鼻が悪いのも病気なんやから仕方ないんちゃうんか?リンダは蓄膿症という病気を治すために、病院に行ってらめっちゃ痛い治療も我慢して受けてんねんやぞ。ちょっと鼻をかんでるから汚いとか、触ったら腐るとか、そう言う考え方の方がおかしいと思わんか?」

と言っていた。先生のこの話に対して、騒ぎの起こる前に教室を出て帰宅した大森が「リンダ君は病気になりたくてなったんちゃう思います。それを汚いとか、腐るとかいうのは差別やと思います」

と言っていた。正義感が強い大森は、いじめとか差別とか、そういったことが大嫌いな性格で、増井が私にタックルして来る問題でも再三にわたって止めるように注意していた。大森の意見に対して星田や今田・福田も

「僕もそう思います。病気とかは体質とかは、本人にはどうしようもできひんもん」そう意見を言ってくれて、病気や体質などで差別するのはおかしいということで、渡部や浜山たちは厳しい批判にさらされた。そして学級会が終わって、休憩時間になって、みんな外に遊びに行こうとしていたので、私もそれに続こうとして教室を出たところで、渡部たちに呼び止められた。

「リンダさぁ、おまえやろ。センコウにちくったの。陰に隠れてこそこそ汚いよなぁ…。おかげで私ら、どんな目にあったと思ってねん。お前のせいで怒鳴られたやろうが。お前が蓄膿症なのが悪いんや」

などと言ってきた。

「こいつら、反省なんかしてない。増井と同じや」

そう思った私は

「そんなんしょうがないやろ。俺かって好きで鼻の病気になったんちゃうわ」

そう言い返すと、私は外に出て、ドッジボールに参加。運動場から帰ってくると、ドアを開けて教室に入った。それを見ていた久保は

「リンダの奴、ドア触ったで。汚いから拭いとかんと」

などと言って、教室にある掃除用の雑巾でドアの取っ手付近を拭き始めた。久保のその様子を見た私は

「なんでそんなことする必要があるんか?俺が触ったからって、何が汚いねん」

というと、

「お前が触ったもんに触れたら手が腐るんじゃ」

などと言っては取っ手をふいていた。それを見ていた星田が

「久保さぁ、お前何やってんの?」

と言っていたのが聞こえた。久保が

「何やってんのって、見たらわかるやろ拭き掃除や。リンダが触ったところを触ったら手が腐るねん」

などと言っていたので、久保に向かって星田は

「バカじゃねぇの?」

などと言っていた。星田は私に

「久保があんなことやってるけど、お前はどう思ってるんや?」

と言うので、私は

「めっちゃ腹が立つ。俺、何も悪いことしてへんのに」

そしてもう一度楢崎先生のところに行って、久保が私に対してとった行動や、渡部が私に対してはいた暴言を伝えに行った。楢崎先生は久保と渡部を呼び出して、先生の前に並ばせて、二人に思いっきりビンタを食らわせて、しかりつけて

「リンダに対して謝れ」

と怒気を強めて言った。

「悪かった。もうせぇへん」

と言うので、このことについては、それで収まった。私も星田とともに学校を出て「なんで久保とか、渡部は急にお前を差別するようになったんやろうか?」

と言うので、正直私もなんて答えていいかわからず

「俺も正直わからへんねん。あいつらは俺の蓄膿症のことを言ってたけでど本当にそれだけなんか、ようわからん」

と話しながら帰った。

「あまり深刻に考えるなよ。そのうちおさまると思うから」

と言うので、私も

「そうやな。しばらく様子を見てみるわ」

と言葉を交わし、星田の家の前で別れて家に帰った。私もこの時はまだ、事態をそれほど深刻に受け止めておらず、一時的なことだろうと思っていた。しかしこの思いは翌日、暗転することになる。

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