第52話紀伊半島一周の旅の計画と5年生の終わり
三学期が終わる前、星田が
「今度の31日に、紀伊半島を一周する旅に行かへんか?」
という話を聞いた。詳しいルートを聞いてみると、近鉄難波駅を8時に出発する近鉄特急で近鉄名古屋駅に出て、国鉄名古屋駅に移動して、名古屋駅から特急南紀に乗って、和歌山県の新宮駅に出て、新宮駅からくろしおに乗って和歌山駅に出て、阪和線の快速電車に乗って天王寺駅まで出て、地下鉄と私鉄を乗り継いで帰るというルートであった。名古屋や紀伊半島はまだ、私にとっては行ったことのないところであり、非常に興味があったので両親に相談してみた。そしたら両親は私に
「行くまでの間に1冊の本を読んで、読書感想文を書いて見せること」
という課題を出して、それをクリア出来たら行ってもいいということであった。
課題をクリアするという条件付きではあったものの、言ってもいいという返事をもらったので、さっそく星田の家に電話して切符の手配をしてもらうことになった。この時に読んだのはあぁ無情と言う人種差別が色濃く残っていた時代のアメリカを描いた小説で、一人の警察官が人種差別と必死に戦った物語が記されていた。
その本を読んで春休みに日帰りではあるが、紀伊半島を一周すいるという旅行にをすることになった私なのであった。
そうこうしている間に3学期の最後を迎えた。卒業する6年生を見送るため、在校生代表として卒業式に参加する。送辞で言う言葉を覚えて、一生懸命練習して卒業式を迎えた。姉が卒業生として体育館に入ってきた。来賓祝辞やお祝いの電報などが読み上げられた後、校長先生から卒業生へはなむけの言葉が贈られ、卒業証書の授与が行われる。各クラス一人一人が呼ばれて、卒業証書を受け取っていく。次第にすすり泣く声が聞かれるようになり、最後に6年生による答辞が読まれる。鳴き声になってなかなかセリフが言えない6年生もいた。この卒業式の光景を見ながら、
「俺も来年の今頃はこうやって卒業式に参加してるんやろうなぁ」
などと考えていた。来年卒業するとき、自分はどんな風になっているんだろう…。いろいろと来年自分が体験することになる卒業式に思いをはせていた。やがて卒業式は滞りなく終わって、卒業生が退席すると、今度は私たちが最上級生として、下級生を引っ張っていくことになる。そのことについて、校長先生からも
「下級生のお世話をしっかりと頑張ってほしい」
と言う話があった。その間、卒業式を終えて姉たちが、校門の前で記念撮影をしていて、それが終わると卒業衰期に参列していた両親と私たちも一緒に帰った。卒業式が済んでしまうと、もう姉と一緒に小学校に通うことはなくなる。今まで姉と一緒に学校に通うことが当たり前のように思っていたが、すぎさってしまえば近所の子供たちも交えて学校に通えた時間と言うのは、大変貴重な時間だったんだなと思う。
そしてこの日は姉の卒業式を祝うパーティーが近所の喫茶店で行われた。お祝いの時でしか食べられ内容の料理とデザートを家族みんなで心行くまで楽しんで、美味しくいただいた。
家に帰って次の日、私が学校から帰ると、姉が中学校出来るセーラー服が届いていた。試着はすでに採寸の時に済ませてあるが、私が姉のセーラー服姿を見るのは初めてだったので、なんかすごくかっこよく見えた。この制服を着て、これから姉は毎日中学校に通うのである。ただ、姉が進学する中学校は、当時かなり校内暴力が頻発するなど、あれた状態であった。そのため姉も両親も
「いじめに巻き込まれるんじゃないか」
などと心配していたようである。事実、姉が通ったK中学校は校内暴力や教師に対する暴力、弱いものに対するいじめなどが問題となっており、教育関係者の間でも問題校として扱われていたそうである。そんな学校に通わせるのであるから、親としても心配だったのだろうと思う。
そして、この僅か1か月後、。私の人生も暗転することになる。しかし、この時はまだ、私の身に起きる激しい痛みを伴う残虐ないじめに巻き込まれるとは、夢にも思ってなかった。
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