第51話11歳

 それからしばらくたって、2月17日。この日は私の誕生日。この日は私がクラスメイトから誕生日カードをもらう日である。皆一生懸命描いてくれたことが伝わるイラストやメッセージが描いてあったし、星田は一緒にHOゲージで製作した103系が描いてあった。表紙を担当してくれた福田は、我が家の愛犬のゴンのイラストが描かれてあった。そして増井は

「1学期・2学期嫌なことしてすまん。もうせぇへんから許してくれんか」

と言うメッセージが書いてあった。私はこの増井が書いていることは、絶対に本心ではないと思った。なぜなら今まで謝ってきて、止めたためしがないからである。

「どうせまた、嘘ついてんねんやろう」

それが私の正直な気持ちであった。そして、その誕生日カードを受け取った後、クラスの皆にお礼の握手をして、ささやかな誕生日のお祝いが終わるのである。増井の誕生日カードは別として、私のためにみんな一生懸命書いてくれたことを私は素直に喜んでいた。誕生日をみんなに祝ってもらえてうれしかった。その誕生日カードを持って帰って母に見せた。

「あらぁ~みんな上手に描いてるやん。ペコちゃん可愛いやん」

などと言っては、皆が書いてくれた誕生日カードを眺めていた。そして増井の誕生日カードを見つけると

「もうせぇへんて言ってるけど、今はどうなん?」

と言うので、私は

「あいつは噓つきや。せぇへんて言っておきながら、平気で約束破るようなう嘘つきや」

というと

「そうなん。まだ止めてへんのか」

と言って、私の生活ノートに直接先生宛に

「私らが伺ったときにもうせぇへんて言ってたのに、まだ息子は嫌がらせをしてくるといってますが、どうなってるんですか?」

などと言う内容の書き込みをしていた。その生活ノートを翌日提出して、先生が

「まだ増井から嫌がらせされてんのか?なんで言ってくれへんのや?」

と言うので、私は正直に自分の思ったことを伝えた。

「止めるって約束しておきながら、今までずっと嘘つかれて、俺もいい加減相手にするのもばからしいねん。せやから増井が何をしてきても無視してるんです」

そう言ってその日は帰宅。その日の先生からの返信には、私の両親宛に

「今まで解決できずにすいません。リンダ君も最近は増井のことに関して何も言ってこなかったので、終息したものと思っていました。それが今日、リンダ君に聞いてみて、まだ継続していると聞いて、わたしも正直驚いています。増井の方にもなぜ止めないのか聞いてみます」

と言う旨の返信が書かれていた。

 翌日、先生が増井に直接私に対する嫌がらせをやめない理由を聞いてみたところ、「特に理由なんかなくて、ただリンダの存在自体が気に食わない」

と言う話をしたそうである。それで誕生日カードに書いてあったことを問いただすと、

「あれは本当に済まないと思って書いた」

そうである。気に食わないから嫌がらせをやめないといっておきながら、本当に済まないと思っているって

「思いっきり矛盾してんじゃん」

そう思った私である。先生は二度とやらないようにくぎを刺し、私にもやられたらいいに来いと言っていたが、それで実効性があるようには思えなかった。増井は二枚舌で、言っていることとやっていることが全然違う。

 そして、誕生日カードを受け取ってから数日後、やはり増井はタックルしてきた。私の真後ろからタックルされたので、私は全く気付かず、思いっきり前に吹っ飛ばされて、天田や久保、中井の前に倒れた。3人は一様に驚いた顔を浮かべながら

「何があったん?」

というので

「増井に思いっきりタックルされた」

と言うと

「けがは?大丈夫なん?」

「けがはしてないみたい。大丈夫や」

と告げると、3人は

「あんた何やってんの?危ないやん。けがしたらどうするん?」

と言って、私も

「お前、二度とやらんて誕生日カードにも書いとったし、先生にも言うたんちゃうんか。まぁお前は嘘つきやから自分が言ったこともすぐに忘れてしまうんやろうけどな」

「俺はな、とにかくお前の顔見たらめっちゃむかつくねん。お前がおらんようになったらええんじゃ」

私はこのままでは埒が明かないと思い、天田・久保・中井の見ている前でもあったので、先生を呼びに行って、今さっきあったことをすべて話した。先生は怒り心頭で、今の時代であれば、体罰と言われるんじゃないかと思えるくらい、増井の顔を思いっきり殴りつけた。その反動で増井の体が大きくよろめき、そして先生の怒鳴り声が教室中に響いた。しかし、これくらいで止めるような奴ではなかった。その後も嫌がらせは続き、3学期も終わりを迎えた。

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