第50話耐寒登山

 ともかく、私の一番苦手なマラソン大会が終わって、ほっとした私である。マラソン大会が終わると毎年恒例の金剛山への耐寒登山。学校からは登山用の靴を用意するようにとの通達が出されるのであるが、このころの体格は、1年違えば全く変わっていて、昨年はいた登山靴はサイズが合わなくなっており、母は

「また登山靴買わなあかんやん。ほんとうに金かかるわ~」

とぼやいていた。こればかりは致し方がないのであるが、一回しか使わないため、もったいないといえばもったいない話である。

 やがて登山当日を迎え、いつもより早めに起きて、明るくなると同時に学校に向かって、バスに乗り込む。コースは去年までと一緒で、次第に市街地を抜けて郊外に出ると次第に山が迫ってくる。駐車場に着いて、全員の降車を確認した後、いよいよ登山開始。初めてこの山に登る3年生は最初から勢いよく飛び出していくので、

「そんな最初から飛ばしたらあとが持たんで」

「危ないから走ったらあかん。地面が凍ってるんやで」

などと上級生から注意されて、ようやく落ち着きを取り戻して、その後の歩を進める。スタート地点の駐車場を出たばかりのころは寒さに身震いしていたが、登山道を登っているとかなりの運動量になり、寒さを感じなくなっていた。息を切らしながら登っていくことおよそ2時間。ようやく頂上が見えてきて、山頂に着くと昼食。ござを敷いて座る前に、汗を吸い取るために肌着の下に入れておいたタオルを取り除いて、体が冷えないようにして、それから昼食。お弁当は寒さで完全に冷え切っていた。お茶もまだ魔法瓶が珍しかった時代なので、普通の水筒に入れていたので、キーンと冷えていた。

 昼食を済ませて、自由時間を過ごすのであるが、私たちが住んでいるところではまず見ることのできないつららが垂れ下がっているのを見つけたり、寒さ対策で、先生が火を起こしてくれていたので、火にあたって暖を取ったり、寒さに震えながらも、思い思いの時間を過ごして下山時刻を迎えた。降る時は登る時よりも足元が滑らないように気を付けなければならないため、余計に時間がかかる。それでもみんな無事に下山したと思ったら、点呼をとった結果、一人いないことが判明。

「遭難したんとちゃうか?」

などとざわつく中、私たちは寒さを避けるためにバスの中へ。私はトイレに行きたくなったので、先生に

「すいません。トイレに生かしてください」

と一言告げてトイレへ。トイレから戻ってきてしばらくたってから、迷子になっていた一人が見つかったということで、無事にみんな揃って学校に帰った。何が原因で迷子になったのかはわからないが、ともかく見つかってよかったと先生も胸をなでおろしていた。

 帰りのバスの中では、小学校の音楽の時間に習う

「雪山賛歌」

を歌って、金剛山へ別れを告げた。芯から冷え切った体に適度に効いた暖房が眠りへと誘う。帰りのバスの中では、皆いつもより早く起きたことに加えて、寒い中の登山で疲れ切っているので、ほとんどの子が眠っていた。私もいつしか眠っていて、目が覚めたら山ははるか遠くになっていた。そして学校について、星田と一緒に帰った。家に帰るとさっさと夕食を済ませて入浴。私は疲れていたのであろうか、風呂の中で熟睡していて、なかなか上がってこない私を心配して、父が呼びに来て、ようやく目が覚めた私である。私は長風呂はしないのであるが、この時は30分くらい入っていたようである。風呂から上がると湯冷めしないようにパジャマに着替えてベッドの中へ。ラジオを聴きながら眠くなるまでのひと時を過ごして、いつもより早めに就寝。深い眠りへと落ちていった。

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