第18話 『本当に本当の最終決戦』

参上! 怪盗イタッチ




第18話

『本当に本当の最終決戦』





 イタッチはアイスキングに向かって走り出す。剣を握りしめて、アイスキングを切り付ける。




 アイスキングの身体に斜めの穴が開く。しかし、アイスキングは叫び声を上げて、イタッチに引っ掻き攻撃を仕掛けてくる。

 アイスキングの爪は攻撃のタイミングで鋭い刃へと変形する。それで何度もイタッチに切り裂こうとするが、イタッチはアイスキングの攻撃を躱す。




 最小限の動きで身体を揺らしながら、攻撃を避けたイタッチは、さらにアイスキングに剣で攻撃をした。

 アイスキングの身体に十字の形をした穴が出来上がる。流石にアイスキングもダメージからか、ふらついて地面に手をついた。




「……っ!?」




 イタッチは一旦後ろへ大きくジャンプする。すると、地面に手をついたアイスキングの攻撃だろう。地面から黒い棘のようなモノが現れた。

 もしもアイスキングの前に残っていたのならば、その棘に串刺しにされていただろう。




「まだまだ抵抗するか」




 イタッチが避けたことに気づいたのか。アイスキングは棘を消して立ち上がる。




「ん、何をする気だ……」




 そして今度は自身で傷口を広げる。そして自分で身体を引き裂いた。

 普通であるのならば、こんなことはできない。しかし、もうアイスキングは普通の状態ではない。避けた身体の中から黒い球が次々と飛び出す。そして空中に飛んでいった黒い球は、イタッチに向かって降り注いだ。




「そんなこともできるのか」




 イタッチは剣で飛んでくる黒い球を切り落としていく。全ての球を切り落とし、攻撃を防ぎ切ったイタッチは、アイスキングを見る。

 いつの間に身体を修復したのだろう。




 穴が空いていたはずの身体は完全に元通りに戻っている。身体を引き裂いたのも、この再生能力を考慮してだったのか。




「強い。アンタは強いよ、でも、傷は治せてもダメージがなくなるわけじゃないんだろ」




 イタッチは傷を治したアイスキングにまたしても剣で攻撃しようと近づく。アイスキングは紫色の渦を発生させると、今度は黒い弓矢を取り出した。

 近づいてくるイタッチに向けて、矢を放つ。しかし、イタッチは剣で矢を弾いて防御した。




 アイスキングに接近したイタッチは剣で上から下へと振り下ろす。アイスキングの身体が真っ二つに切断され、左右に分かれた身体は別々に地面に倒れる。




「まだだろ。こんな程度じゃまだ倒せるはずがないんだよ」




 真っ二つになったアイスキングにイタッチは剣を向ける。すると、アイスキングの肉体はドロドロのスライム状に溶けて、一つにまとまる。

 そしてゆっくり元々形へと戻っていった。




 復活したアイスキングにイタッチは剣を向ける。

 アイスキングも両手を前に出すと、渦から剣を取り出して、イタッチに剣を振り下ろした。










 極寒の大地。そこに炎の軍勢と岩の軍勢が押し寄せていた。




「報告します! 炎の国と岩の国が最後の門を突破しました!!」




 氷の兜を被った兵士が、国王に報告をする。それを聞き、国王は最後の命令を出す。




「ポーラ、ロウナ、エンペラー、オルド、お前達に命令を出す。我が息子と娘を連れて、国を脱出しろ」




 城内に残ったのは、国王を警護するための兵士。殆どの兵士は門で戦闘をさせていた。そこが突破されたとなれば、もう勝ち目はないだろう。




「国王様はどうなさるんですか!?」




 オルドが聞くと、国王は汗ひとつかかず、堂々と答えた。




「私はここで国と共に滅ぶ。息子達を任せたぞ」




「…………分かりました」




 三人の兵士と一人の執事は王の子供達を連れて、秘密の通路へと向かおうとする。しかし、息子は




「嫌だ。僕は残る、僕もお父様と!!」




 それを聞き、我慢していた娘も泣き出し、




「私も、離れ離れなんて嫌です!!」




 しかし、国王は息子達に背を向ける。決して振り返ることはしない。




「お二人ともこれも国王の決断です」




 嫌がる子供達を大人達は無理やり連れて行く。王は離れて行く子供達に、最後の言葉を残した。




「すまない……」




 それは小さく、誰にも聞こえていなかったかもしれない。だが、その言葉と共に国は滅んだ。





 二人の王族と四人の従者は燃える国を山の上から見下ろす。




「国が……」




「お二人は我々が命に変えてもお守りします。なので……その…………」




 オルドが燃える城を見ている二人の子供にどう伝えようかと迷っていると、兄は腕で涙を拭き取り、オルドの方へと向く。




「……ありがとう。皆も、家族も仲間も失ったのに…………」




「国が滅ぼうとも、我々が支えるのは変わりません」







 氷の国が滅び、氷の国があった場所は岩の国が支配していた。岩の国と協定を結び、氷の国へと攻め込んだ炎の国だったが、その後、その国の間でも戦争が起こり、岩の国が多くの領土を手にして落ち着いた。




 国王の息子達は森でひっそりと暮らしていた。王族は顔がバレている。そのため集落へと買い出しなどは、オルドに任せて、岩の国の住民との接触は避けていた。

 裕福とは言えない暮らし。それでも彼らの生活は充実していた。はずだった。




 十数年が経過した時。森にローブを着た老人がやってきた。彼は商人と名乗り、ある物を取り出した。




「これは……杖、ですか?」




「ケケケ。ええ、しかも強大な力を持った強力な杖ですぞ……」




「これがあれば……。国を取り戻すことも……」




「ええ、できますとも……。ケケケ」




 最初は信頼していなかったが、杖を見てから息子の様子はおかしくなった。何かに取り憑かれたように、興味を持ち、杖を購入した。






 アイスキングと名乗る男が、岩の国に攻め込んだ。不思議な力で兵士達を薙ぎ倒し、あっという間に岩の国を乗っ取ってしまった。

 アイスキングの従者にはポーラ、ロウナ、エンペラー、そしてオルドの姿があり、四人はアイスキングに付き従い、国の再建へと動き出す。




 杖の力を使い、恐怖で国民を支配する。

 国が滅んだ恨みか、父と離れ離れにさせられた憎しみか。全ての鬱憤を晴らすように、岩の国の住民を苦しめる。

 そこにはかつての姿はなく。




 アイスキングは暴君と化していた。




 そんなアイスキングの姿に、ネージュに城を飛び出した。暴走する兄を止めるため、各地で協力者を探す。しかし、すでに氷の支配者として恐れられていたアイスキングに立ち向かおうとするものはおらず、一人で立ち向かおうとした時。




「ネージュ。僕も君について行かせてくれ」




 そこで出会ったのが、ラビオンだった。

 彼は農村の出身で、事情を聞いも誰も協力してくれなかった中、ネージュと共に戦うことを決めてくれた。


 それから仲間を増やしていき、ネージュはついに故郷へと帰った。

 そしてネージュとラビオンは二人でアイスキングの城に乗り込んだ。




 多くの犠牲を出しながらも、ネージュはアイスキングの封印に成功。だが、その代償としてネージュは宝石になってしまった。









 アイスキングとイタッチはお互いに剣を振り、武器をぶつけ合う。火花を散らす押し合い。押し負けた方が切り倒される。




 そんな斬り合いをイタッチは勝った。アイスキングの剣を折り、イタッチの剣はアイスキングを切り裂いた。

 真っ二つに切断されたアイスキングは断末魔をあげる。




 もう体力を使い切ったのか、今度は再生することはできず、アイスキングの肉体は黒い霧になり、バラバラになって消滅した。

 アイスキングの姿が消滅すると、天から杖が降ってくる。




 イタッチはその杖をキャッチすると、ニヤリと微笑んだ。




「……アイスキング。お宝は頂いたぜ」














「イタッチさん、まだ帰ってきませんね」




 渦の中にアイスキングとイタッチが消えて、屋上で残ったメンバーは待っていた。

 ダッチは腕を組んで堂々と待ち、フクロウ警部は欠伸をしながら空を見上げる。アンはパソコンで周囲の状況を調べ、ネージュは祈るような姿勢でイタッチを待つ。




「待たせたな!!」




 その声と共に上空に渦が現れる。そしてイタッチが渦から飛び出した。




「イタッチ、戻ってきたか!」




 ダッチは相棒なら心配いらないと言い張っていたが、イタッチか戻ってくると一番最初に声を上げた。




「お宝もしっかり頂いてきたぜ」




 イタッチが杖を見せる中、ネージュはイタッチに近づく。そして下を見向いて尋ねた。




「兄上は……」




「消滅したよ。アイツもやれることを全て尽くしたんだ、後悔はないだろうよ」




「そう、ですよね」




 ネージュが顔を上げと、そのネージュにイタッチは杖を突き出した。




「これはお前の兄の形見だ。お前にやるよ」




「え……。でも、イタッチさんが手に入れた、お宝ですよ」




「良いよ。それにネージュ。お前は俺達の仲間だ。報酬は山分けしないとな」




 ネージュは確認するように、ダッチとアンの方も見る。二人は頷いて納得しているようだ。




「皆さん……ありがとうございます」





 







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