第17話 『アイスキングvs三人』

参上! 怪盗イタッチ




第17話

『アイスキングvs三人』





「本当にあの人達だけで大丈夫なの?」




 ネージュはアイスキングに向かい合う三人の背中を見て、心配そうにアンに尋ねる。

 アンは三人の背中を見て、安心し切った様子で答えた。




「あの三人が手を組めば、絶対に負けません」




 イタッチ、ダッチ、フクロウ警部。三人が並んで、アイスキングを見上げる。




「フクロウ、ダッチ。道を作れるか?」




 中央に立つイタッチは、アイスキングを見上げたまま、二人に聞く。二人も目線は動かさずに、




「問題ないぜ。相棒」




「ああ、俺もだ……。なら、トドメは任せて良いってことだな」




 イタッチは頷き、マントから折り紙を取り出す。そして折り紙を折ると、剣を作った。




「行くぞ。みんな」




「「おう!!」」




 イタッチの合図とともに、イタッチとダッチは走り出す。助走をつけて、アイスキングの元にジャンプするつもりだ。

 フクロウ警部は数歩前に進み、その場で立ち止まると、ホルスターから拳銃を取り出す。そしていつでも撃てる体制で構える。




「ダッチ、ジャンプだ!」




「了解、相棒!!」




 イタッチとダッチはタイミングを合わせて、ジャンプする。アイスキングまでの距離は、数十メートルあるが、そこまで届くほどの跳躍を見せる。




 しかし、アイスキングもただ待っているわけではない。今まで動きのなかったアイスキングだが、イタッチ達が近づいてくるとやっと動き出す。

 両腕を前に出して、粘土をこねるように空中を混ぜる。すると、イタッチとダッチの進む先に紫色の渦が発生する。

 そしてその渦から大量の瓦礫が降り注いだ。




「ここは任せろ。相棒!!」




 イタッチと同時に飛んでいたダッチだが、身体の体制を変え、空気抵抗を減らして前に出る。そして落ちてくる瓦礫を次々を切っていく。

 ダッチが瓦礫を切ったことで、障害物がなくなり、道ができる。




「サンキュー、ダッチ!!」




 ダッチは瓦礫を切り終えると、その反動でジャンプの威力がなくなる。




「後は任せたぜ。相棒!!」




 そして鼻水を垂らしながら、落下していった。




 アイスキングとイタッチの距離は残り半分になる。しかし、まだアイスキングの抵抗は終わらない。

 アイスキングはまたしても目の前で空気をこねると、また紫色の渦を発生させた。




 そして今度は渦の中から巨大な爆弾が現れた。

 この爆弾をイタッチにぶつけてしまおうということだろう。県できることもできるが、そんなことをしたら爆発してしまう。




 渦から爆弾が出てきて、イタッチに向かって落ちようとした時。地面から発砲音がする。

 そして爆弾に弾丸がぶつかり、イタッチの向かう方向から軌道がずれる。




「ナイスだ。フクロウ警部!」




 発砲したのはフクロウ警部。屋上から拳銃で爆弾を狙い撃った。さらに爆弾はイタッチが通り過ぎてから爆発。離れた位置での爆発であったが、その爆風でイタッチの飛ぶスピードがさらに増した。




 これで一気にアイスキングに近づいた。




 イタッチは折り紙の剣を構える。しかし、まだアイスキングは諦めない。最後の足掻きで、また紫色の渦を作り出すと、今度はビームを放った。

 イタッチに向かって飛んでいくビーム。だが、イタッチは身体を逸らして、ビームをギリギリで避ける。マントがビームに触れて、焦がるがそれでも飛んでいき、ついにアイスキングの目の前に到達した。




「くらえ!!」




 イタッチは剣を振るう。アイスキングの身体を赤い剣が通過して、真っ二つに切断した。




「グァァァァァァっ!?」




 切られたアイスキングは悲鳴を上げる。これで倒し切れた。そう思った時だった。




「ん、まだ……」




 アイスキングは切られた状態で、渦を作り出す。そしてイタッチと自分を渦の中に飲み込んでしまった。




「っ!? イタッチ!!」




 ダッチが叫ぶが、イタッチにその声は届かない。イタッチはアイスキングと共にどこかへと消えてしまった。










 そこは床が黒塗りにされて、真っ平な空間。空を見上げれば星々が輝き、空気は澄んでいる。




「ここは……どこなんだ」




 渦に飲み込まれ、どこかへと飛ばされた。

 イタッチはキョロキョロと周囲を見渡す。すると、切られて体が半分になったアイスキングが宙に浮いていた。




「……まだ足掻くってことか。お前もしつこいやつだな」




 イタッチの言葉にアイスキングは反応しない。だが、アイスキングとの戦闘はまだ終わっていない。そう、イタッチは感じていた。




 空から星々が降り注ぐ。流星群がアイスキングに四方から降り注ぎ、アイスキングと同化していく。アイスキングの身体は光だし、またしても変形し始める。




 口が大きく裂けて、背中に羽が生える。身体が巨大化して、膨れ上がった身体は5メートルを超えた。

 しかし、身体が膨大なエネルギーに耐え切れなかったのか、内部から避けていく。体内から黒い霧のようなものが溢れ出し、中と外が入れ替わるように霧が身体を包み込む。




 変形した姿をそのままに、黒い霧となった肉体。目は赤く、イタッチを憎むように睨む。




「これが本当の最終決戦……だな」




 イタッチはアイスキングの姿を見て、折り紙の剣を両手で構える。




 全身が黒塗りになり、影人間のようになったアイスキング。アイスキングが手を前に突き出すと、渦が現れてその中から、黒い剣が出てくる。

 その剣を握り、アイスキングは一振り剣を振る。




 空中で振った剣だが、剣を振った衝撃で風が発生し、イタッチの毛は風に揺れる。




「来たっ!」




 一度剣を振ってから、アイスキングはイタッチに突撃する。剣を振り下ろして、イタッチを切り付けようとするが、イタッチは剣を横にしてガードした。




「攻撃力もスピードも上がってるな……」




 アイスキングは様々な方向からイタッチを切り付けるが、イタッチは剣でガードを続ける。

 ずっとガードを続けていたイタッチだが、タイミングを見計らってカウンターでアイスキングの懐に潜り込み、アイスキングのことを切り付ける。




「どうだ? 効いたか?」




 切られたアイスキングはヨロヨロと後ろに下がる。霧でできている身体は、すぐに修復してしまうが、ダメージはあるようだ。

 イタッチは追撃を加えようとするが、アイスキングは剣を捨てる。そして両手を前に突き出した。




 何かをしてくる。そう判断したイタッチは、攻撃をやめて後ろに下がる。

 その判断は正しかったようで、アイスキングの頭上に紫色の渦が現れると、その渦からビームが放たれる。

 頭上から地面に向けて放たれたビーム。もしも突っ込んでいれば、そのビームを受けていただろう。




 人があたれば体が粉々になるようなビーム。しかし、そんなビームが当たったというのに、地面は無傷であり、ヒビすら入らない。

 ビームを放ち終えたアイスキングを警戒し、イタッチは距離をとりながら周囲を歩く。アイスキングの中心に、円を描くように移動する。




 イタッチが様子を見ていると、アイスキングは両手を上げる。すると、アイスキングを中心に数キロ先までの頭上に雲が出来上がる。

 黒く太い雲が宙に浮き、ゴロゴロと音を鳴らす。




「これは……」




 雲を警戒したイタッチは折り紙を折る。そして避雷針を作った。




 雲から一斉に雷が降ってくる。逃げ場のない雷の雨。イタッチは避雷針で周囲に落ちてくる雷を集めて、自身は姿勢を低くしてどうにか避ける。




「こんなこともできるようになったのか……」




 雷の雨が止み、イタッチが立ち上がると、空を覆っていた雲もなくなった。




「やるな。アイスキング……だが、そろそろ決着をつけさせてもらうぜ」




 イタッチは剣を構えると、アイスキングに向かって走り出した。




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