四.同年 霜始降②

 次の夜、雲雀寺の一角より火の手が上がった。


 野分の季節も過ぎ、このところ雨が少なかったものだから空気も木々もすっかり乾いていて、炎は一晩中燃え盛り、寺の大部分を焼き尽くした。


 幸い僧たちの避難は早く、境内の損害ほど死人は出なかったものの、その少ない死者の中に、幽閉されていた前国主の名があった。ただ骸はどれも黒焦げで損傷が激しく、身許の判別は不可能であり、死亡者と生存者の数が合わないという話まで出てきた。出火の原因、火元も、結局不明のままだ。


 弟君の治世は比較的堅実なものであったが、彼は生涯、兄の幻影に怯え続けることになる。

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