三.同年 玄鳥去(つばめさる)

 屋敷が思いのほか活気づいて、早二十日。日中はまだまだ暑いが、朝晩はいくらか秋らしい涼しさが流れ込んでくる。


 その間に、珊瑚は四度も、夜中に屋敷をこっそり抜け出していた。


 彼女も離れに起居しており、毎度ご丁寧に、出て行く前と帰って来た後に茜が寝入っているかを確認しに来るものだから、むしろ逆効果である。却って目の冴えた茜も、最初の夜は怪訝にしか思わなかったが、三度目にそっと後を追い、門を細く開けて出て行く姿を見た。さすがに外までは尾行できず、寝たふりで待つこと半時ほどで、忍び足は戻って来た。


 そして、二日前の夜も。


 瀬名家の部外者である茜は一日煩悶して、珊瑚が侍女と城下町に出かけた今日、意を決して主屋へと足を運んだ。


「瀬名様、差し出がましいことかもしれませんが」


 書類仕事をしていた手を止め、尚衡は目視で戸口に座した茜の発言を許す。


「……弟姫おとひめ様が、夜更けに何度も屋敷を抜け出しているようなのです」

「ああ。知っている」

「え?」 


 想定外の返しに、告げ口をするような一抹の後ろめたさを感じていた茜は、半月のような両目を丸くした。


「でしたら何故、止めないのです。……もしや瀬名様は、弟姫様がどちらに行っているかもご存知なのですか」

「一度尾行した。……むしろ、仁乃殿にまで気づかれていたのか」

「わたくしが眠っているか、様子見にいらっしゃるものですから」

「私の寝所も覗きに来た。夜には門の番所に家人を置いているのだが、強く言われると逆らいづらいようだ」


 尚衡は軽く仰のいて嘆息する。


「身内の恥を晒すようで申し訳ない。だが、明日の夜、決着をつける」

「と仰いますと」

「珊瑚殿は明日も屋敷を抜け出すつもりだ。それを押さえる」


 確信を持って言う尚衡に、茜は思わず口にした。


「わたくしも、ご一緒させてはいただけませんか」

「何故仁乃殿が」


 即座に却下こそされなかったが、当然の疑問だろう。だが茜自身、驚くほど不意に出た一言であり、論理的に説明できる根拠はなかった。


 それでも、強いてその衝動に由来を求めるとすれば。


「――――女の勘です」


 美しかった異母姉は、夜に城を抜け出し、帰らぬ人となった。


 いつになく揺るぎない茜の眼差しに、今回は尚衡が妥協した。


「……そうだな。傍目があったほうが、珊瑚殿たちも冷静になれるかもしれない」


 疑問はいくつかあったものの、その場で深追いはせず、茜は尚衡に指示を受けて次の夜を待つことにした。


 当日の昼も、珊瑚の様子に変わったところは見受けられなかった。侍女と共に繕いものなどに励みつつも、基本は香合わせや活け花に興じ、茜と顔を合わせればにこやかに挨拶はするが、敢えて部屋を訪ねて打ち解けようとはしてこない。


 尚衡は、西曲輪内の何某かの宴席に呼ばれたからと言って夕刻より屋敷を空け、二人でそれを見送った。


 そして、あと僅かに満ち足りない月の夜。


 茜も珊瑚も、普段どおり就寝した、ふうを装って、その時を待つ。


 どれほど経った頃か、つと、外から襖に手がかかる気配を感じた。闇の満ちた室内を窺い、細心の注意を払って静かに立ち去る様子を、茜の耳は確かに捉える。


 息を殺し、茜も行動を開始した。起き上がり、部屋を、離れを抜け出して、先程訪れた気配の主を追う。


 その者が庭から門に向かい、言い逃れのできない状況まで進むのを見届け、庭に下りた茜は背後から声をかけた。


「――――どちらへ行かれるつもりですか」

「っ」


 お互い灯りは手にしていなかったものの、明るい星月夜の下、珊瑚の息を呑んだ表情は伝わった。茜は白単衣に小袖を羽織っただけだが、珊瑚はしっかり小袖を着込み被衣まで用意していて、それだけで真夜中の外出を目論んでいたことが判る。


「……あなた寝てたんじゃなかったんですか」

「さすがにこの時間、供も連れずにうら若い女性が外出するのはいかがかなものかと」

「うるさいわね、仁乃様には関係ないでしょう」


 茜の静かな正論に、珊瑚はやや感情的に返す。


「関係なくても、このまま見逃すことはできません」

「やめて、放っておいて!」

「嫌です、部屋にお戻りください!」

「来ないで! あっち行って!」


 距離を詰めようとする茜を、珊瑚は激しく拒絶する。その円らな瞳からは、はっきりと敵意が迸っていた。互いに煽られるようにして言い合いが声高になり、番所の家人が「お二方とも、お静かに」と恐る恐る口を差し込む。


 どちらも一歩も退かない遣り取りの後方で、門を叩く音がした。誰何することなく家人が閂を抜き、軋んだ音を立ててその者を迎え入れる。


 珊瑚が震える声を上げた。


「兄上様! ……いずみ様!」

「声を抑えよ、真夜中だぞ」


 宴席という嘘で屋敷を空けていた尚衡は、もう一人、二十歳前ほどの中肉中背の青年を伴って帰館した。挟み撃ちにされ、何より青年の姿に打ちのめされたらしい珊瑚は、先程までの威勢が嘘のように脱力する。今にも崩れ落ちそうなその姿に、青年が低く呻いた。


「珊瑚……済まない」


 一切の言い訳をせず、ただ一言謝った青年を、尚衡は振り返り屋敷の中へと促す。


「話は中で聞く」


 屋主に続き、三人も主屋の広間に上がる。上座に尚衡、その斜め脇に茜が座し、上座の正面に珊瑚と青年が並んで座らされた。燭台に灯は入れられたが、深夜の闇はその程度で払拭しきれるものではなく、人払いされた室内は仄暗い。


 さすがに珊瑚も観念したようだったが、刺々しい目つきで茜を見遣る。


「……どうして仁乃様までいらっしゃるんですか。何も関係ないのに」

「関係ない者の目があったほうが、そなたたちも理性的に話ができるだろう」


 尚衡の言に、珊瑚は昏い笑みを浮かべた。


「姉様の喪が明けたら仁乃様を奥方にお迎えするのだから、瀬名家の内実を知っておいてもらいたいということですか?」

「だから、そのつもりはないと言っているだろう。人の話はきちんと聞け」


 珊瑚の痛烈な皮肉を、尚衡は落ち着き払った声ながらも真っ向から否定する。それについて茜が何かを思うより先に、堪えきれずに珊瑚が喚いた。


「いいわ、だったらわたしが説明して差し上げます!」


 尚衡に異論を挟む隙を与えず、敵愾心も露わに、珊瑚は挑むように茜を見据える。


「仁乃様、こちらの方は、夏目なつめ泉太郎君連きみつら殿。七尾国太守様の弟君の傅役殿の嫡男です。小姓勤めを経て、今は弟君の西曲輪屋敷の留守居役を任されているの」


 国主の弟君、ということは、尚衡の弟でもある。その人物に仕えているという、誠実そうな面差しの青年は、茜と視線が合うと気まずそうに頭を下げた。


「そして三月前、わたしが輿入れをして、祝言の前に離縁させられた御方です」

「……どういうことです?」


 輿入れしたのに、祝言も挙げずに離縁となった。どうしたらそういう状況が生まれるのか咄嗟に理解できず、茜は瞬く。


 精一杯の虚勢で笑みを貼り付けた珊瑚は、なおも威勢よく続けた。言いたいだけ言わせたほうが気が済むと諦めたか、尚衡も君連も止めない。


「三月前に夏目様の館に輿入れして吉日を待って。いよいよ明日が祝言と言う日に、瀬名家から報せが届いたの。姉様が、子を宿したまま急にお亡くなりになったって」


 尚衡の補足によれば、君連と珊瑚の婚約は四年前。家同士の結びつきが云々というよりも、始まりは宴席での戯言だった。その頃既に尚衡は珊瑚の姉・瑠璃るりと結婚していて、西曲輪で酒の席を共にした父親同士が、実は年明けに息子の元服を行う運びとなりまして、でしたらうちに似合いの年頃の娘がおります、となり、家格の釣り合いも問題なく、とんとん拍子に話が進んだらしい。当人たちも、一度西曲輪で顔合わせをして、その後も文の遣り取りを続けていたそうだ。


 ただ、互いの祖父母の逝去などもあって、輿入れは当初の予定より遅くなった。ようやく三月前、それが叶ったと思ったら、今度は病弱だった姉姫が、胎のと共に亡くなったのである。


 結婚した以上当然の流れだが、尚衡は亡き妻との間に子を授かるはずだったのだ、という事実が、何故か茜の胸を衝いた。


 それはともかく、忌中に祝言を避けるのは仕方がない。しかし。


「慌しく瀬名家に連れ戻されて、ようやく不思議に思ったの。既に夏目の館に入っていたのだし、祝言を延期するだけならわざわざ国境を越えて実家に戻ることもないでしょう? そしたら姉様の葬儀が終わって父上が仰ったの、夏目家との婚儀は撤回する、おまえが兄上様と夫婦になって、瀬名家を継ぐ男児を産めって!」


 入り婿を迎えた瀬名氏としては、やはり己の血を引く孫に家を継がせたいのだろう。それに、瑠璃も珊瑚も七宝のひとつ、男児に恵まれなかった彼にとって、姉妹は何よりの宝だったに違いない。


「それだけでも混乱の極みなのに、気持ちの整理がつく前に、兄上様が太守様から側室を下げ渡されたことを泉太郎様からの文で知って。もう堪らなくなってこの屋敷に押しかけたら」


 茜に向けられていた険しい眼差しが、ふと揺れる。


「……噂には聞いていたけど。もう絶対、敵わないじゃない。私たちも、地元じゃ美人姉妹なんて持て囃されていたけど、次元が違うわ。こんな文句のつけようのない美人と張り合えるわけないでしょう!」


 地団太を踏みそうな癇癪声に、茜は珊瑚から向けられる敵意の理由が解った気がした。


 彼女はきっと、姉姫が健在だった頃から、義兄ではなく男性として尚衡に憧れを抱いていたのだ。その想いに蓋をして君連と夫婦になるつもりだったのに、急に姉を亡くし、悲しむ間もなく義兄の妻になれと命じられて。素直に喜べずにいる中で、尚衡が国主から側室を払い下げられた。それも、当代随一と名高い、目映いほどの美姫を。


 まだ十代と歳若い珊瑚の胸の内で、混乱が怒りに転じるのも無理のない話かもしれなかった。


「もう何もかも嫌になって、泉太郎様と駆け落ちしようと思ったの。泉太郎様も賛成してくれたわ」


 話の鉾先と、上座からの視線が君連に向けられる。君連は居住まいを正し、珊瑚の台詞を肯定した。


「……おれも、家の都合だけで結婚も離婚も決められたことに嫌気が差したのは事実です。でもそれ以上に、陪臣ながら、太守様を本心から敬うことができなくなった」


 冬から春にかけて、五原国いつはらのくにの北部で一揆が起こり、騒動が連鎖したため国主は宗主の七尾国に助力を求めたのだが、七尾の反応は鈍かった。場所が国境に近かったために一橋国の軍まで出張ってきてようやく重い腰を上げ、一揆自体は鎮圧したのだが、そのまま一橋軍と衝突することになってしまった。事態は膠着し、彰衡が古参の臣の諫言を無視して襲撃を仕掛けた結果、辛うじて一橋軍を追い返すことはできたが、七尾・五原軍も甚大な損害を被った。成功すれば鮮やかな奇襲だったのだろうが、雌雄を決したとは言いがたい終結であった。


 その「甚大な損害」の中に、元服を終えたばかりの君連の弟もいたのだと言う。


 徳永家の落城とも時期はそう離れていない。その頃の七尾国には、各国へ兵力を割けるだけの余力はなかったのかもしれない。


 異母弟に対する苦言ともとれる発言に、尚衡は僅かに眉間を皺寄せたが、真一文字に引き結んだ唇からは叱責も弁明も出てこなかった。


「全部投げ出してしまおうと思って、珊瑚……殿の誘いに乗ったんです。だけど三日前の夜、珊瑚殿と計画を練って別れたあと、瀬名殿が屋敷にいらっしゃって。問い詰められて全部白状してしまったんだ」


 後半は珊瑚に対する釈明だった。尚衡は上背があるし眼光も鋭く、本気で凄まれたら大概の相手は音を上げてしまうだろう。それを解っているためか、珊瑚は恨めしげな視線こそ投げたものの、君連を責める言葉は口にしなかった。代わりに、開き直ったように上座に向き直る。


「そういうことです、兄上様、仁乃様。……わたしたちをどう処罰なさいます? 不義理を責めて斬り捨てるか、生かして瀬名の血を遺す駒とするか。追放であれば、せめて二人揃って出て行くことを許されると嬉しいですけど」

「――――それは駄目です!」


 捨て鉢な珊瑚の笑みを受け、反射的に口をついて出た声に、当の茜自身も驚いた。けれど、無関係な立ち位置のはずであった茜に三者の視線が集中し、勢いのままに言葉を続ける。きっちり着込んだ昼の小袖と違い、単衣の胸元はまろやかな曲線が浮き出ているのもお構い無しだ。元より姉や妹のように化粧栄えのしない面立ち、素顔を初対面の男性に晒すことにも抵抗はない。


「弟姫様、あなたは状況もご自分たちの身の上も軽く考えすぎです。もし今宵の駆け落ちが成功したとして、あなたがたを見過ごしてしまった家人たちは軽くはない罰を受けるでしょう。……そう聞いて顔色を変える程度の覚悟で、出奔を決めたというのですか!」


 表情を強張らせた下座の二人に、茜は一喝する。自分でも、いったいどこからここまでの激情が湧いてくるのか解らない。


「それに、身ひとつでどこへ行こうとしていたのです。他家に仕える伝手や、日々の活計たつきの当てはあったのですか? この時代は、憂世を生きる人々に優しくはありませんよ」

「それは……」


 実に判りやすく言い澱む珊瑚と押し黙る君連に、茜は溜め息を禁じ得なかった。若さゆえの身軽さと無謀は羨ましくもあるが、諫めるのも年長者の役目だ。


 そして、気づいた。自分は珊瑚に、行方知れずの姉と妹を重ねて見ている。彼女と同じように、闊達で、己の心に正直だった姉妹を。この歳の頃に夜に消えた姉。同じ歳で城を失った妹。


 珊瑚を思い留まらせることで、二度と二人には会えないかもしれないと思う心が少し慰められる気がしていた。


「……って、あなたにそこまで言われる筋合いないわ、赤の他人なのに」

「それに、婚約どおり結婚するためなら、何も駆け落ちでなくても方法はあります」


 男性二人は、見目も声音も可憐な茜の突然の説教に呆気にとられたままだが、一足先に正気づいた珊瑚も負けじと言い返す。しかし茜は一言でそれを封じ、更なる反論を待たずに言い放った。


「いちばん早いのは、弟姫様が夏目様の子を身籠ったと公にすることでしょうね」

「!」


 楚々とした外見からは想像のつかない大胆な発言に、三者三様に息を呑む。構わず茜は続けた。


「祝言に先んじて夏目氏の館に入ってしていたのでしょう? 輿入れが予定より遅れたこともあり、お互いつい気が逸ってしまいました、という言い訳も不可能ではありません。名のある家の姫君にそこまで致しておきながら責任を取らないとなれば夏目様の評判は地に落ちますし、弟姫様の父上様も、娘の名誉に傷がつくことを望みはしないでしょう」

「そんな無茶な」


 顔を赤らめた二人の様子を見れば、そういう先走りはなかったことが明白だが、茜は強硬に言い募る。


「無茶苦茶でも支離滅裂でも、それで押し通すほかありますか。あとは一刻も早く既成事実をつくること」

「既成事実って」

「加賀見の館に戻されてから既に三月近く。月満ちるまでが十月十日ですから、ぎりぎりどころかむしろ手遅れです。だからこそ急いで、それでも計算が合わないと訝しむ者には、何しろ初めてのことなので最初は勘違いでした、でも今は本当です、で言いくるめるのです」

「いやそれは……」


 ようやく口を開く余裕が戻って来た君連も難色を示し、茜を、次いで上座を見遣る。義弟となるはずだった者の視線を受け、尚衡はしばし熟考するように瞼を伏せた。


 そして目を開き、今宵の決定権を持つ者としての判断を下す。


「――――二人とも、仁乃殿の言うとおりにするのだ」

「兄上様っ」

「それでよろしいのですか、瀬名殿」

「ああ」


 上擦った声を上げる珊瑚と君連に、尚衡は泰然と頷いた。屋主の同意を得て、茜はきびきびと指示を飛ばす。


「そうと決まれば、早急に二人で離れにお籠もりください。わたくしは今夜は主屋に泊まります。瀬名様、構いませんか?」

「いいだろう」


 勝手に話を進める二人に、当事者の珊瑚はどうにか割り込もうとする。


「ちょっと待って、……えええ?」

「待ちません。駆け落ちまで企てておいて、何を今更迷うことがあるのです。さあ早く」

「だって、まだ姉様の喪中で」

「光大将は四十九日の直後に俤の前を妻としたのでしょう?」


 茜は痺れを切らし、立ち上がって下座の二人を離れへと追い立てる。そこに尚衡まで加わり、珊瑚と君連は戸惑いに目を白黒させたまま、離れの珊瑚の寝所に押し込められた。


 二人を追い遣り、尚衡と元の広間に戻った途端、茜は腰が抜けたようにぺたりと座り込む。慌てた尚衡が膝を折って声をかけた。


「仁乃殿、どうされた」

「いえ、その、……今更ですが、ものすごいことをしてしまったと」

「本当に今更だな」


 冷静になってみれば、赤の他人が、勢い余ってとてつもなく差し出がましいことを仕出かしてしまった。しかし頬を両手で押さえた茜に、尚衡は愉快そうに苦笑する。


「……瀬名様は本当に、あれでよろしかったのですか」

「ああ。仁乃殿のおかげで、腹が決まった」

「申し訳ございません」

「謝ることではない」


 床に指をつこうとする茜に、尚衡は目許を和ませる。君連を尋問し自供を引き出したときとは全く異なる、磊落な眼差しだった。


「今宵はこの広間に寝間を準備させる。もう夜も充分更けた、仁乃殿もすぐにやすむといい」


 その言葉どおり、起こされた下女によって褥が伸べられ、尚衡は自身の寝室に引き上げる。燭台の灯りが尽きると、室内は暗闇に閉ざされた。


 茜は衾を引き被って横になり、そう遠くはないであろう夜明けの前に、少しでも眠ろうと瞼を閉じた。


 うつらうつらと夢に沈みながら、ふと自問する。


 珊瑚を思いとどまらせるのであれば、父君の言うとおり瀬名様と夫婦となり名実共に瀬名の家を継ぐ子をもうけなさい、と説得することもできた。どうして自分は、夏目様と添う道を選ばせたのだろう。


 だが答えが形となる前に、茜は意識を夢闇へと手放した。

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