六.後日談

 皆原城から出奔を果たした徳永家一の姫と乳兄弟の、その後の消息は詳らかではない。


 同時代、青蓮寺家の縁者が女官として朝廷に出仕した記録はあるが、その本名はおろか候名さぶらいなも、如何なる功績も遺されてはいなかった。「羽衣姫」は、まさにその名のとおり、正史の上から跡形もなく消え去ってしまったのだ。


 だが一方で、世にも美しい、聡明で愚直な姫君の伝説は、西国を中心に人知れず、しかし無視しきれない程度の数遺されている。旅の途中に休息した岩に詠んだ歌、中には終焉の地として伝わる墓標もある。


 更に一説には、大陸に興った大国・フォンにおいて、建国の七賢と称されるうちの紅一点、中原ちゅうげんの歴史には稀な宦官を置かない後宮の統括者・ヨン氏と同一人物とする言い伝えもあるが、真偽の程は定かではない。

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