三.同年 玄鳥至③

 下男の平吉は、緩やかに日暮れが迫る中、奥庭側に設えられた厠へ向かう途中、視界の端で動いたものを反射的に見遣って驚愕した。


 曙光のような赤い小袖、肩の辺りで切り揃えられた髪。間違いなく、先頃自分が土蔵に閉じ込めた童女である。


 気づかれたことに気づいたか、童女はぱっと袖を翻し蔵のほうへ駆けていく。平吉も慌てて一人それを追った。あれも磨けば光る類いかもしれないが、何より連れの少女が極上だった。癖のない髪、切れ長の双眸、通った鼻梁、秀でた額、きりりとした眉。ふっくら艶を帯びた桜色の唇になめらかな肌、ほっそりと伸びやかな肢体。平吉には学がないが、月にはしった仙女もかくやの花の盛り、今まで取り扱った数々の女たちの中でもずば抜けている。それを逃したとなれば、蔵の管理を受け持つ自分が責められることになる。


 ……しかし、どうやって逃げ出したのだろう? 扉には自分がしっかり閂をかけたし、窓は童にも小さすぎる。


 気が動転し、ガタガタと常より耳障りな音を立ててようやく閂を外す。扉を押し開けると、小窓からひとすじの夕陽が思いのほか強く差し込む闇の中、そこは蛻の殻だった。


「な……」


 信じられない光景に、呆然と一歩踏み込む。いったい何故。どうやって。


 ――――その答えは、脳天に直撃した。

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